Selection 9：サティスファイサー ページ31
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嶋家の朝は―――早い。
休日であれど、外がぼんやり明るくなった5：00には、各々の部屋から物音が響く。
父。和弘は
身支度を整えると、真っ先にダイニングキッチンに降りてくる。
鉄茶瓶をIHコンロにかけると、冷凍庫からその日の気分に合わせてチョイスした珈琲豆をきっちり20g量り、ダイニングテーブルに置く。
そして、リビングに置かれたクラッシックステレオの音楽を聴きながら、
ダイニングテーブルで本を読み、湯が沸くのをのんびりと待つのだ。
鉄茶瓶からブクブクと音が鳴る頃には、朝のランニングから帰った一希が着替えてキッチンに入る。
手引きのステンレスミルで豆を挽くと、クラッシックの流れるキッチンに芳醇なアロマが溢れ、
ランニング終わりの興奮した脳を優雅に落ち着かせてくれるのだ。
同時に冷蔵庫から必要な食材をチョイスし、慣れた手つきで朝食の用意を始める。
一希の動きには迷いがない。
前日の夕飯を作る際、冷蔵庫の中身は確認済みだ。
左手でフライパンに卵を落としつつ、右手でイングリッシュマフィンの内側にバターを塗る。
両手をそれぞれ別々に動かせるのは、ピアノやドラムをかじっている者ならあるあるだろう。(多分)
フレンチプレス器に豆と鉄茶瓶のお湯を150cc入れて30秒蒸らす……間にイングリッシュマフィンをトースターにセットする。
残りの150ccを追加し、４分タイマーセットすれば、
パンに軽く焦げ目がつき、具材を挟み終わった頃には珈琲が出来ている。
勿論、片手で食べられるようにワックスペーパーに包む事は、忘れない。
微粉を取り除いた珈琲と共にダイニングテーブルに並べ、
父子は揃って手を合わせた。
「「いただきます」」
リビングの大窓の向こうで輝く清々しい朝の陽を感じながら、珈琲を片手にタブレットを指で流す。情報収集は、大事な日課である。
嶋家に“ながら食事はお行儀が悪い”と咎める者はいない。
昔から効率重視であった父が、本を読みながら朝食をしていたため、
一希も兄も、その悪い癖がついてしまった。
そして、母は―――……
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