Selection 8：変わっていくモノ×変わらないモノ ページ29
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大きく靡くチェッカーフラッグに煽られ、轟音を鳴らす小さなバイクが
明日から新学期が始まるという春休み最後の日、
一希は救護スタッフに駆り出された小児科医の父と共に、サーキットを訪れていた。
この日行われていたのはキッズバイクレース。
予選を勝ち抜いた小さな猛者達が磨き上げられた技術を武器に、一秒のタイムを競い合うのだ。
10年前――― 一希はココで、バイクに出会った。
父に連れられて来た当初は、耳が割れるようなエンジン音に驚き恐怖もしたが、
その興奮は直ぐにバイクへの憧憬に変わり、
今では音でエンジンの特性を聞き分けられる程まで詳しくなった。
(元々“耳”は良かったのだが)
一希はスタート・フィニッシュラインを正面に望む観客席で、じっとサーキットを見つめる。
キッズバイクだと侮ることなかれ。彼等のレースは一分一秒を掛けた真剣勝負。
このエリアはそんなレースの緊張感をダイレクトに感じることが出来る特等席だ。
ここに来れば、
変わらない自分を見つめる事で、変わっていく自分を受け入れることが出来るのだ。
懐かしさに双眸を細めながら、一心にコースに視線を向ける一希の隣に、知った顔が並ぶ。
男もまた、サーキットで鎬を削り合うバイクから視線を外すことなく、言葉だけを投げた。
「レースに来るなんて、珍しいな」
―――お前のフィールドは、エクストリームだろう？
「
少しばかり嫌味ともとれる彼の言葉に、腕を組み自嘲を零す。
顔を見なくとも、こんな小生意気な声を掛けてくる人物など、誰だか直ぐに分る。
何を隠そう、一希がバイクと出会ったキッズレースで、他選手の追随を許さず圧勝を飾っていたのが、この男なのだから。
後からこの男が同じ年と知り、一希のバイクへの興味は一層掻き立てられ、
気づけば恋色沙汰の分岐点をなおざりにする程にのめり込んでいた。
だから―――
「お前のせいで俺はまともな恋愛が出来な
思考の説明がないまま脈絡なく発した一希の
男はサーキットから視線を外して睥睨を向けた。
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