Karte.13 手談(しゅだん) ページ49
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ある日曜日の昼下がり。
ひだまりサロンの囲碁チャンピオンである山下さんとの一局に、
眉間に皺を寄せて頭を抱える律の袖が、控えめに引っ張られる。
顔を上げた先には、不安げに表情を曇らせる日向の姿が。
「ん?どうした日向―――」
「律さん、玄関の外に、誰かいる―――」
日向に指摘され、玄関扉に視線を向けると、
確かに大きなすりガラスの向こう側に影がうろうろと動いている。
近所の人や宅配なら、躊躇う事無く入って来てくれるはずなのに。
「どれどれ、お客さんかなぁ」
腰を上げる律に、向いに座った山下のおじいさんは扇子で口元を隠し、
ほっほと笑った。
「おやや、逃げるんですかぃ、律先生!」
「いやいや山下さん、戻ったら俺が形勢逆転ですから、待っていてください」
玄関に向かう律の背を見送りながら、日向は盤面を横目見る。
囲碁のルールは詳しくは知らないが、
それでも律が握る黒石の地が少なく、どう見ても形勢逆転できるようには見えない……。
「大口叩きおって!これはどう見ても儂の勝ちじゃろうて―――」
局は決した。と言わんばかりに哄笑を上げる山下さんの前に、
すっと影が落ちて来る。
影の主は律の座って居た椅子に腰を落とすと、碁笥にすっと右手を入れた。
そして、
パチン―――
那智黒石が日向榧の盤を叩く澄んだ音に、
三日月形に緩んだ山下さんの瞳が、すっと光を宿していく。
「ほぉ―――この盤面から、どう逃げる?」
悦に浸る彼の手は、重い音を立て、ハマグリの光を碁盤に落した。
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囲碁の相手をせがまれ一局相手をしていたが、
五子局置いたところでルールを覚えたばかりの律に勝ち目はない。
正直なところ、日向の声は碁盤から逃げる恰好の口実となった。
ほっと溜息を浮かべながら、サロンの玄関扉を開ける律。
すると、玄関前でうろうろと躊躇っていた影が、
扉に引きずられるように前のめりになった。
「わっわっわぁぁぁ……」
ぽすっ。
律にぶつかって止まった影は、額を擦りながら顔を上げる。
「すっ、すみません!!!お怪我は?!」
怪我どころか、律は微動だに動いていないのだが。
恐る恐ると上げた視線の先で、青い瞳が細められていく。
「あ―――あれ?律先輩?」
「――――――……なんだ、知隼か」
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シオン(プロフ) - この囲碁の影の人は誰か凄く気になります。 (2022年9月27日 7時) (レス) @page49 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 自分のキャラも登場させてくれてありがとごさいます。 (2022年9月19日 22時) (レス) @page38 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ(プロフ) - 風を出演させて下さりありがとうございます!こんなにも早くサロンのお手伝いができるとは思わなかったのでとても嬉しく思います!風の態度や話し方、律さんへの接し方と日向くんへの接し方の温度差も私が希望通りです!ありがとうございます! (2022年9月19日 16時) (レス) id: 64ca5697bb (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 律さん、風邪大丈夫になるのですか!心配です。 (2022年9月19日 8時) (レス) @page30 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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