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こうなる事が分かっていて、このタイミングで話を切り出したな―――
風は抗議の視線を向けるが、
とうの律はいつもの笑顔で、お年寄りたちの会話に相槌を打っている。
これでは埒が明かないと、風は律の前に仁王立ちし、視界を遮る。
急に目の前に現れた影に、律は顔を上げて風を見上げた。
「ちょっと。勝手に決めないで―――」
「日向は―――じゃがいもと玉ねぎが作りたいらしい。
お祖母さんに、初めて習った料理が、カレーだったそうだ」
「―――……っ」
日向の名前を出され逡巡の間が生じた風を、律は見逃さない。
君は顧問だから、時々アドバイスをくれるだけでも構わない。
固く考えないで―――
日向と俺達を、助けてくれないか?
長く伸ばした前髪の奥を見透かすように、
青い瞳が風を見上げて離さない。
面倒な事は嫌いで、厄介事は出来るだけ遠ざけたい―――そう思っていたのに。
「ぁー……………めんどっ」
確かに、日向に“薬を使わない治療リハビリテーション”について教えたのは風だ。
変な責任感が、彼女の胸を燻る。
たっぷりの時間を使い、長いため息をつくと、
風はくるりと踵を返した。
未だ何を植えるかで議論している年寄りたちに、
「今回は、玉ねぎとジャガイモにしましょう」と鶴の一声を鳴らすと、
彼等も「それが良い!」と賛同した。
種芋や玉ねぎの苗は、畑仕事の合間に昼食を取ろうと立ち寄った農家のおじさんが
分けてくれるらしい。
風が残りの処方箋処理を行っている間に、
電光石火の如く決まってゆく“ひだまりサロン 園芸クラブ”を、
風の作業をするテーブルの横に椅子を引き寄せた律は、嬉しそうに見つめた。
「ウザい。離れていろ」
椅子を離し、作業を再開する風。
律は外を見つめたまま、懐かしそうに目を細めた。
「俺は向日葵が好きだなぁ〜」
「聴いてない」
「植えてもいい?」
「はぁ?もう秋だから」
……
日向の祖母は、ひだまりサロンを気に入ってくれるだろうか―――
何処までも噛み合わない律と風だが、
彼女の認知症の症状が、少しでも軽くなることを願う気持ちは
同じであった―――。
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シオン(プロフ) - この囲碁の影の人は誰か凄く気になります。 (2022年9月27日 7時) (レス) @page49 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 自分のキャラも登場させてくれてありがとごさいます。 (2022年9月19日 22時) (レス) @page38 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ(プロフ) - 風を出演させて下さりありがとうございます!こんなにも早くサロンのお手伝いができるとは思わなかったのでとても嬉しく思います!風の態度や話し方、律さんへの接し方と日向くんへの接し方の温度差も私が希望通りです!ありがとうございます! (2022年9月19日 16時) (レス) id: 64ca5697bb (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 律さん、風邪大丈夫になるのですか!心配です。 (2022年9月19日 8時) (レス) @page30 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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