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きっと今夜は友人の家に泊まるに決まっている。
夏とはいえ、あの家では夜風も凌げないだろうし。
額と机の間で、ぼそりと零れた声が曇る。
赤の他人なのに、なぜか先程会ったばかりの不思議な男の事が、気になって仕方がないのだ。
あの男が困っても、別に僕には関係がないのに。
だけど―――
律は、ずっと笑っていた。
“大丈夫だ”と自信満々に言い放った。
なんとなく、あいつは大丈夫な気がする。
何の根拠もないけれど、そんな予感がした。
・
・
・
翌日―――
僕は自転車を走らせて、あの丘の上のボロ家を目指した。
別に律が気になるわけじゃない。奴に脅かされて転げた愛用の鉛筆が、一本足らない事に気付いたから取に行くだけだ。
誰かに聞かれたわけでもないのに、僕はあの丘に登る為の理由を、頭の中で反復していた。
丘の上まで登り切った僕は、家の前でペダルを止めて片足をつく。
ボロ家の周りには何人もの人がいて、カンカンと釘を打つ音や、電気ノコギリが木材を切るモーター音が響いていた。
窓は全開に開かれ、中から女の人が顔を出す。
この家の窓が開いている所を、僕は初めて見た。
何事かと呆けて見ていると、聞き慣れた声に呼び止められる。
「なんだ日向、こんなところにどうした?ああもしかして、ここでスケッチ描いているのか?」
「父さんこそ、こんなところで何してんだよ……」
腹に響くような威勢のいい声は、ボロ家の屋根の上から降ってくる。
休日なのに朝からどこかに出かけていると思ったら、こんなところにいたのか。
「何って、みりゃわかんだろ?屋根を直しているんだよ」
父の大きな声に、周りで作業していた人たちの視線が集まる。
集まった人たちの中には、近所のお節介おばさんもいて、「あら日向君、お父さんに会いに来たの?」とわざわざ家から出てきてはお菓子があると勧めてきた。
「良かったじゃないか」と囃し立てる父に、恥ずかしいからやめてよと睥睨してみたが、父に僕の気持ちは伝わっていない。
おばさんが自転車の進路を妨害し中へと招き入れようとした時、丘の下から一台のバイクが大きなエンジン音を立てて登って来た。
その人はヘルメットの黒いシールドを開けると、バイクの後ろに設置されたキャリーケースの中から大きな缶を取り出し、屋根の上で作業していた父に向って、周囲の作業音に負けずと声を張り上げた。
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シオン(プロフ) - この囲碁の影の人は誰か凄く気になります。 (2022年9月27日 7時) (レス) @page49 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 自分のキャラも登場させてくれてありがとごさいます。 (2022年9月19日 22時) (レス) @page38 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ(プロフ) - 風を出演させて下さりありがとうございます!こんなにも早くサロンのお手伝いができるとは思わなかったのでとても嬉しく思います!風の態度や話し方、律さんへの接し方と日向くんへの接し方の温度差も私が希望通りです!ありがとうございます! (2022年9月19日 16時) (レス) id: 64ca5697bb (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 律さん、風邪大丈夫になるのですか!心配です。 (2022年9月19日 8時) (レス) @page30 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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