Holistic Blue

Karte.10　生活者 ページ36

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東大原総合医療センター
　 職員食堂――――


「乳がん術後10年目の脳転移(メタ)ですか……」


律の隣でうどんを啜るのは、外科時代の後輩でもある柊木拓人(ひいらぎたくと)だ。

後輩と言っても専門分野が違う上に、何かと優秀な彼に
律が直接指導する事はほぼないのだが、
外科医に珍しくのんびりした性格と
話し上手な雰囲気に加えて 同じバイク通勤というよしみもあり、

時折こうして話をすることがある。


ひだまりサロンの改修工事後にも、
若い男手(働き手)として呼びだし、物資の調達を手伝ってもらった。

通勤こそバイクを使っている柊木だが、車も所有している為
時折足に―――いや、一緒に出掛ける事もある。


今日も食堂に入って来た柊木を、
先にカレーを食べていた律が呼び止めて 隣に座らせた。

隣でイリコ出汁のいい香りを立てられると、
やはりうどん定食にしておけばよかったかと、誘惑が擽る。

食事中など構わず呼びだされていた研修医時代に、
何度も伸びきった麺をすすった苦い思い出が蘇る為
職場で麺を食べる事に抵抗があった。


初めは、詰まらぬ用事を押し付けられるのではないかと 警戒していた柊木だが、
患者情報の説明が始まった途端、
真剣な眼差しで律の言葉に耳を傾ける。


「あれ、青柳先輩って総合診療内科に転科していませんでしたっけ？」
―――どうして乳腺外来の患者なんて診ているんですか。


恨めしそうに隣を見ていた律は、己のカレー皿に視線を戻した。


「いや。症状が頭痛と吐気と眩暈の為、初めから内科に来たんだ。
主科の乳腺外来は今年10年目でホルモン療法も来月で終わる予定だったらしく、
患者本人や家族も まさかがん転移とは思わなかったらしい」


ＭＲＩの結果、脳浮腫と脳転移が見つかり、
転移性脳腫瘍( brain metastasis)と診断された。

脳は、乳がんからの転移が起りやすい臓器の一つであり、
10年後に転移が見つかるケースもある。

だからこそ、ホルモン療法や通院フォローを10年目まで行うのだ。



「俺に声をかけたって事は、手術適応―――って事ですか？」

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