Holistic Blue

Karte.８　不審者 ページ26

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……

「くしゅん！」


豪快なくしゃみが、朝の静かなサロンに木霊した。


近くの住民に開放された賑やかなサロンと言っても、早朝・深夜では人もいない。



連日のサロン修繕作業と病院勤務に加え、
この煎餅布団で寝ている事が体調を悪化させたのだろう。

かねてから目標としていたこの場所での新生活に胸を躍らせ、
慌ただしい日々の緊張感が解れてきた事も、
“油断”という免疫低下を招いたのかもしれない。



「あの地獄の研修医時代を無病無休で乗り切ったくらい、体力には自信があったのになぁ……」


鼻をぐずりながらロフトの階段を降りると、窓を開けて思い切り背伸びをする。
肺一杯に清々しい朝の空気を取り込むと、
頭の先から足の先まで血流が巡り 身体が温かくなるのを感じた。


いや、この身体の温かさは本当に血流が巡っただけだろうか。

もたれかかる様に頬を付けたサロンの壁は、
朝の冷気を浴びたとは言え 驚くほど冷たかった。




「―――……そういや、この家には体温計も血圧計もなかったっけ」


ついでに言えば、常備薬もない。


「ははっ、俺としたことが」





この丘の上に立つひだまりサロンの利用者は、日中に比較的時間の融通が利く高齢者が圧倒的に多い。
今は夏季休暇という事もあり、日向のような学生や、高齢者が孫を連れてくるなど若い世代も見られるが、
新学期が始まれば急速にサロンの高齢化が進むだろう。


加えて今後秋冬を迎え寒暖差が激しくなれば、急激な血圧の変動や血栓など循環器系のリスクが増えてくる。
利用者が高齢者なら、尚更に注意が必要だ。


「処方箋のない薬(常備薬)は流石に渡せないけど、
バイタル測定が出来る一般医療機器や暖房器具なんかは置いとく必要があるよな……」


立地柄、緊急時の交通の不便さを考慮すると、
AED(自動体外式除細動器)も置いておきたいほどだ。



(俺の布団も、早々に買い替えが必要だ……)



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