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一般的な記憶は、感情を伴う程忘れにくい。
中でも失敗したり怒られた記憶は強く心に残りやすいのだ。
同様に、成功体験や楽しかったという感情を伴う記憶も残りやすく、
優勝した記憶が早々直ぐになくなるのは、何か原因があるかもしれないという。
「この前サロンの修理に来てくれていた時、抗がん剤治療を行っているって言っていたね」
「え、そうなの?」
相変わらず律は、あちこちに耳があって、人の話をよく覚えている人だと思う。
普段笑顔を崩さずふんわりとしているくせに、その頭から出てくる知識の量は並みの者ではない。
「今年の夏も暑いし、普段治療で家にいる事が多い人が突如運動を始めると、熱中症になり易いとも言う。
頭に小さな血栓が出来たり、他にも、がん症状の進行や脳転移、抗がん剤治療によるケモブレインで認知症状が出ている可能性もあるから、一度病院で検査を受けた方がいいかもしれないね」
いずれにしてもサロン(ここ)で出来る事は何もない―――。
そう言われているようで、僕は少し、寂しさを感じた。
早くクリニックを立ち上げたら、もっとできる事が増えるのだろうか。
そんな僕の心を読んだのか、律の笑顔の奥にもどことなく寂寥感を感じた。
「人にも場所にもそれぞれ、役割がある。
俺達の役割は、皆が自分で健康を守っていけるように、ほんの少しお手伝いをすることなんだよ」
そういえば。クリニックの話を聴いた時、律が話していた。
ここは“medical treatment(医療)”ではなく、“self-care”を助けるところなのだと。
「明日森下さんに会ったら、律さんの助言を伝えてみるよ」
「うん、頼んだよ」
ひとしきり話をした後、僕は自転車に跨りサロンを出た。
そして、翌日も日勤の律に代わり、昨日聞いたことをそれとなく森下のおばさんに伝えたのだ。
おばさんは、今日の午後からおじいちゃんを病院に連れて行ってみると話していた。
検査の結果何もなかったならそれが一番だが、
もし何かが見つかり、早期に対応できたとしたら、
僕の存在も少しだけ“セルフケア”の助けになれたのかもしれない―――。
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シオン(プロフ) - この囲碁の影の人は誰か凄く気になります。 (2022年9月27日 7時) (レス) @page49 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 自分のキャラも登場させてくれてありがとごさいます。 (2022年9月19日 22時) (レス) @page38 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ(プロフ) - 風を出演させて下さりありがとうございます!こんなにも早くサロンのお手伝いができるとは思わなかったのでとても嬉しく思います!風の態度や話し方、律さんへの接し方と日向くんへの接し方の温度差も私が希望通りです!ありがとうございます! (2022年9月19日 16時) (レス) id: 64ca5697bb (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 律さん、風邪大丈夫になるのですか!心配です。 (2022年9月19日 8時) (レス) @page30 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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