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律は、まるで魔法使いのように僕の心を見透かしてくる。
それを少し悔しく感じる位、僕はこの人に心を許しているのだろう。
僕だって、少しは律を驚かせてやりたい―――
「言っとくけど、課題は持ってきていないよ?もう終わったから。
代わりにこれを持ってきた」
そう言うと、僕は逸る気持ちを抑えながらスケッチブックを手に取った。
律のイメージと違っていただろうか……やはり変だと、言われるだろうか。
それでも律が納得してくれるまで何度だって描き直すつもりでいたから、
下書きを鉛筆で描いたのだ。
不安と期待を持ったまま、僕はスケッチブックを受け取った律の次の言葉を待った。
「やっぱり、俺のイメージ通りだな」
スケッチブックの向こうから、律の笑顔が覗く。
緊張から解放された僕は、ほっと胸を撫で下ろした。
片手に筆箱を握りしめ、いつでも修正できるように構えていた僕を見て、律はくすくすと声を上げる。
「何、修正言われると思ったの?
言っただろう?俺と日向の思いは同じだって」
再びスケッチブックに視線を戻した律は、青い瞳を柔らかく細める。
協調と親しみやすさを表現するために、あえてフォントには丸みをだし、
見た人それぞれがそれぞれの感性で想像できるように、あえて説明は少なくした。
その代わり、スケッチブック全体にこぼれんばかりに描いたのは、サロンのテーブルとそこから見える外の景色。
色調は、クリニックの建物や自然をイメージした白や青の他、
この場所が訪れた皆にとって陽だまりになればいいなとの願いを込めて、
黄色やオレンジを使って暖かさを表現するつもりでいた。
「凄いよ日向、俺のイメージ通り!
まだ鉛筆書きなのに、まるでここに温かい“ひだまり”があるようだ」
律もそう、思ってくれていたんだ―――。
それが僕には嬉しくて、強い自信が、心の中に芽生えた気がした。
この場所が、温かく人を迎え入れるサロンとなりますように。
そして、その想いに賛同してくれる仲間が、一人でも多く集まりますように―――
どちらからともなく、僕と律は顔を見合わせた。
片手に握っていた筆箱から鉛筆を取り出した僕は、スケッチブックの隅っこの方に小さな文字でメッセージを付け加える。
【ひだまりクリニックのスタッフ募集中―――】と。
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シオン(プロフ) - この囲碁の影の人は誰か凄く気になります。 (2022年9月27日 7時) (レス) @page49 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 自分のキャラも登場させてくれてありがとごさいます。 (2022年9月19日 22時) (レス) @page38 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ(プロフ) - 風を出演させて下さりありがとうございます!こんなにも早くサロンのお手伝いができるとは思わなかったのでとても嬉しく思います!風の態度や話し方、律さんへの接し方と日向くんへの接し方の温度差も私が希望通りです!ありがとうございます! (2022年9月19日 16時) (レス) id: 64ca5697bb (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 律さん、風邪大丈夫になるのですか!心配です。 (2022年9月19日 8時) (レス) @page30 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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