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観音開きのサロンの扉は今日も全開に開け離れているが、昨日とは違ってやけに静かだ。
少し前に家を出たはずの父の軽トラックも見当たらないし、
僕が一番乗りのようだ。
吸い込まれるように中に入った僕は、
片手にスケッチブックを持ち、テーブルの上にリュックを置くとサロンの中を一通り見渡す。
やはりまだ、誰も着ていないようだ。
「おはよう、日向。
悪いけどそこの段ボールを手のひらサイズに切って、半分に折って持ってきてくれる?
二つあると助かるよ」
小さな溜息を零していると、どこからか声が掛かる。
突然名前を呼ばれたことで、僕の臆病な心は跳ねあがり、ドッドッと大きく鼓動を鳴らした。
律の声がするが、肝心の姿が見当たらない。
僕はスケッチブックを机に置くと、きょろきょろと辺りを見渡した。
丁度そこに空いたミカン箱とハサミが落ちていた為、言われるままに切り取ったが、
肝心の声の主が見当たらない。
持ってきてと言われても、どこに持っていけばよいのやら……。
「こっちこっち!カウンターの奥」
まるでどこかから見ているかのようにタイミングよく声を掛けられ、カウンターの中を覗き込んだところ、大きな棚を一人で持ち上げようとする律と目が合う。
僕は慌ててカウンターを回り込み、彼の手元に段ボールを差し出した。
「俺が浮かせている間に、それを楔のように差し込んでくれる?」
「う、うん……こう?」
言われるままに、隙間に段ボールを差し込むと、「今度はこっち」と反対側の角を持ち上げた。
僕はすかさずもう一つの段ボールの欠片を隙間に差し込む。
重みから開放された律は、自らの両手を労わる様に擦り合わせた。
そして、改めて「おはよう」と、昨日と同じ笑顔を向けた。
「いやぁ、助かった!こんないいタイミングで日向が来てくれるなんて、ツイてるな」
無精髭が伸び、昨日とは違うよれよれのTシャツは既に所々汚れている。
僕が来る前からサロンの型付け作業をしていたのが一目で分かった。
「どうして僕が来たって分かったの?それに、名前だって―――」
口ごもる僕に、律はにんまりと笑う。
「昨日、大垣のおじさん達が君の事“日向”って言っていたじゃないか。
メッセージアプリも既読になっていたし、そろそろ来るかなって思っていたんだ」
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シオン(プロフ) - この囲碁の影の人は誰か凄く気になります。 (2022年9月27日 7時) (レス) @page49 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 自分のキャラも登場させてくれてありがとごさいます。 (2022年9月19日 22時) (レス) @page38 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ(プロフ) - 風を出演させて下さりありがとうございます!こんなにも早くサロンのお手伝いができるとは思わなかったのでとても嬉しく思います!風の態度や話し方、律さんへの接し方と日向くんへの接し方の温度差も私が希望通りです!ありがとうございます! (2022年9月19日 16時) (レス) id: 64ca5697bb (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 律さん、風邪大丈夫になるのですか!心配です。 (2022年9月19日 8時) (レス) @page30 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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