第35夜：Engagement――― �� ページ16
「お抹茶？」
首をかしげるシノン。
その反応を見ると、どうやら飲んだことがないようだ。
「休憩がてら、野点をしてみようか―――」
そう言うと、隼は摘み終えた茶葉を魔法布で包んで片付け、
代わりに敷布と茶碗、茶筅、茶杓、茶筒、鉄茶瓶と水筒を取り出した。
マリカに作ってもらった魔法布は、何処でも重宝する。
見た事もないその不思議な道具に、先程まで退屈そうにしていたシノンの目が輝く。
火を起こして湯を沸かし、茶筒の中から茶杓にひとさじを茶碗に移す。
茶筒からは、甘い香りが立ち込めた。
「良い香り―――」
「今摘んでいた茶葉を熟成させると、こうなるの」
「でも、この筒ひんやりしているわ……」
「本当は挽きたての茶葉が一番甘くておいしいのだけど―――そうそう茶を点てる機会なんてないから冷凍していたの。
そうすると味の劣化を避けられるらしいわ……」
元は―――人間界にあった文化の一つのようで、
隼もまた人間と交流を持つ事を好む師匠のリリンから、
女性の嗜みとして教わったのだ。
野点はかなり簡略化されてはいるが、本来の作法は色々とルールがあり、
身に着けけてしまえばその所作一つ一つが美しく、
自らの内面と対話するかのような静寂の時間を得られる事から、
隼の中では密かなブームになっていた。
茶碗にお湯を注ぎ、手首を使って茶筅を揺らす。
簡略化された野点とはいえ、如何にうつくしい所作で、如何に空気を含ませて点てるか―――
心の静けさは、自らとの対話である。
真剣な”ミスト”の表情は、美しい―――その流れるような所作にシノンは息を呑み、
自然と背筋を伸ばした。
「―――粗茶ですが」
差し出された茶碗を両手で持ち、口を含むミスト。
新緑の若葉の様な緑は、想像していたより甘かった。
「美味しい―――」
「薄茶にしたからね」
喜ぶシノンに、隼はにこりと微笑みを向けた。
「お抹茶？も、美味しいけれど……お茶を作っているミストはとても綺麗だったわ―――」
「有難う―――『茶道の所作は美しくあれ』と、師匠に教わったのよ」
「素敵ね！ミストをお嫁さんにするヒトが羨ましいわ〜！」
「―――………」
(彼女もそう、思ってくれるのかな……)
第35夜：Engagement――― ��→←第35夜：Engagement――― ��
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美園(プロフ) - kohakuさん» うん可愛いですね…陸翔さんと勝負して負けてもぉなんで！って言って陸翔さんに揶揄われるというか遊ばれるというかなんかそんな感じのが目に見えます笑まぁ結論は可愛いは正義ですね (2021年8月16日 21時) (
レス) id: 62efdfcc66 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - 美園さん» そんなハノンさん可愛い！練習用サクランボは沢山ありますから♪自信満々に、「陸、勝負よ！」と言いながら、可愛く負けて欲しい（笑） (2021年8月16日 21時) (レス) id: cbd072c832 (このIDを非表示/違反報告)
美園(プロフ) - 結べないのも可愛いですよね…意外と負けず嫌いなハノンは影で練習してるかも？まぁ可愛いですね♪ (2021年8月16日 21時) (レス) id: 62efdfcc66 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - 美園さん» ですよね！必死な二人が可愛い♪さて、どちらが勝ったのでしょうか（笑）私的には、この二人、結べないくらいな方が可愛くて良いですけど♪ (2021年8月16日 21時) (レス) id: cbd072c832 (このIDを非表示/違反報告)
美園(プロフ) - 改めてみてさくらんぼのところハノンとリリアちゃん可愛すぎる…尊い！どっちが勝ったんでしょうねふふふ（（ (2021年8月16日 21時) (レス) id: 62efdfcc66 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
