第10夜：IRIS（虹の女神）�� ページ31
「遅いぞ、ハヤト」
「酔っ払いが煩いです。まったく、俺をなんだと思っているんですか…陸翔さん」
(仮にも他族の副長を酔っ払いの介抱に呼び出すなんて、貴方位だ……)
文句の一つでも言ってやりたかったのを、ぐっと腹の底で堪えた隼は、中性的な顔を怪訝そうに歪め、下を向いたままの陸翔にオブラートに包んだ嫌味を放つと、レノンに向きなおり、深々と頭を下げた。
「里長が、お世話になりました―――ご迷惑をおかけする前に、責任をもって連れ帰ります」
「あはは！陸翔の“コレ”はいつもの事。大丈夫だ！私はそんな事気にしないぞ！狼少年」
おおらかに笑うレノンに、申し訳ないと再度頭を下げると、目の前で脱力する陸翔を肩に担いで立たせた。
「後で酔い覚まし渡しますから、ここで吐かないで下さいよ？」
「大丈夫だ、オレはそんなに酔っていないぞ？」
「どの口が言いますか……」
苦笑いのレノンに手を振り見送られながら、陸翔と狼男の姿に変装した隼は獣人の里を後にした。
狼の里へ向かう途中の森の中で、突然に陸翔が声を上げる。
「考え方や概念や、表現する言葉はそれぞれ違う。
違うものを表現しているようで、実は皆が同じものを見ている事だってある……」
隼から酔い覚ましを受け取ると、その小瓶を一気に飲み干した陸翔。
まだぼんやりとする思考の中で、先程のレノンの言葉がいまだに頭を反復する。
「なんです？藪から棒に―――」
酔っ払いの説教は勘弁ですと言わんばかりに、顔をしかめる隼に、陸翔は考え込むように言葉を続ける。
「思い込みや概念を取っ払って見方を変えれば、見えなかったものが見えてくるかもしれない…。それは案外、オレ達の近くに存在するかもしれない……」
「―――……哲学的ですね」
「だが、何かが引っかかる…何かが―――」
腕を組み、歩きながら真っすぐ前を見る陸翔の顔は、
酔っ払いらしからず真剣な表情をしていた。
「“黒塊”の事ですか―――」
周囲にヒトの気配がない事を確認し。隼はぼそりとつぶやいた。
「多分な―――」
「―――……残念ながら。俺が掴めている情報にはまだお伝えできる程の物はありません。
もう少し、時間を下さい。」
視線を逸らせる隼に、陸翔は森を抜けながら言葉を返した。
「焦る必要はない―――まだ蒼い月は盤上に上ってすらいないからな…」
「―――……
陸翔の後ろを歩く隼は視た。
焦るなと言いながらも、
爪が食い込むほど握り締められた陸翔の手を。
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kohaku(プロフ) - 名無しさん» コメント有難うございます。お褒め頂けて光栄です！ (2022年5月28日 15時) (
レス) id: 010498cf3b (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 情景描写がとても素敵で感動しました！ (2022年5月28日 13時) (レス) id: 645a3b4e65 (このIDを非表示/違反報告)
美園(プロフ) - リクエスト受けて頂きありがとうございます！！ (2021年5月16日 9時) (レス) id: 16ac793f5a (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - 美園さん» リクエスト有難うございます！確認事項がありますので、ボードにお邪魔いたします (2021年5月15日 20時) (レス) id: cbd072c832 (このIDを非表示/違反報告)
美園(プロフ) - リクエスト？でシノンちゃんがハノンに紙芝居を見せた後、陸翔くんがどうなったか知りたいです！いいですかね？ (2021年5月15日 20時) (レス) id: 0b7aaa97b0 (このIDを非表示/違反報告)
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