Place 10 蠢く影の唄 �� ページ7
思わず声を出しかけた自分の口を、片手でふさぐ。その異様過ぎる光景に、胃の辺りから嘔気すら湧き上がった。
慌ててカーテンを戻すと、床に座り込んだままのランの腕を引きあげて部屋の出口に急いだ。胸の不快と動悸で息が上がる。理玖に引きずられるように部屋を出たランもまた、呼吸が落ち着かず、瞳いっぱいに涙を浮かべて過換気を起こしかけている。
(なんなんだ…ここは―――いったい何があるって言うんだ。こんなところに連れてきて、学園は俺達に、何をさせるつもりなんだ？！)
「とにかく、和希や鈴花達と合流しよう―――」
「わっ……わかった―――」
ランは震える声で頷くと、理玖に手を掴まれたまま廊下を走った。震えで足が覚束ず、いつものように走れない彼女の腕を引き、焦る気持ちを抑えながら理玖は続く廊下を走った。
(鈴花は無事だろうか…悲鳴は聞こえていないが―――こんな事なら、別行動するんじゃなかった)
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一方、理玖達と別れた鈴花は先行するカイルと和希の後ろをついて歩いていた。
鈴花の腕を掴んだままの衣麻奈が小さな声で話しかける。
「鈴ちゃん―――理玖君と離れて、良かったの？」
「え？」
「ランちゃんと理玖君…今、二人きりじゃない」
「それは―――」
それは、鈴花にも不安があった。
理玖と離れる事の不安、理玖が他の女の事二人きりでいる事への不安。
だが今は有事である、そんな感情を抱くべきではないと、心の底に押し込めていた。
なのにどうして、突然に衣麻奈はそんな事を言うのだろうか。
「どうして―――」
鈴花が口を開くよりも先に、衣麻奈が鈴花に耳うちした。
「ランちゃん…理玖君の事が好きだって言ってたよ？」
「小さい時に祓い屋達の集まりについてきていた理玖君を見かけて、一目惚れだって。理玖君の役に立ちたくて、祓いの術を磨いて来たって―――」
耳から入った衣麻奈の声が、そのまま抜けていくくらい、何も考えられない。
身体の外に漏れ出るかと思うくらいの不謹慎な動悸が、音を立て、非日常と極度の緊張が相まって、普段なら行えるはずの冷静な判断の邪魔をする。
思考が停まった鈴花は、その場で足を止めた。
後ろに続く足音が止まった事を不審に思ったカイルと和希が振り向く。
「どうした？鈴花ちゃん、衣麻奈ちゃん―――」
「大丈夫？鈴ちゃん――」
衣麻奈が、表情の消えた鈴花の顔を覗き込む。
不審に思った和希とカイルも、鈴花の顔を覗き込んだ。
「…鈴花ちゃん――？」
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