Place 15 覚悟 �� ページ50
理玖の青紫の瞳が、目の前に座る男…父親を冷たく睨みつけた。
「ああ、あの事か」と、小さなため息をつく父親の態度に、理玖の苛立ちが募る。
表情に出さぬようにと冷静を装う理玖に、父は淡々と話した。
「鷹取家からランをお前の許嫁にとの申し出があった」
「お断りします。私には既に許嫁がいる事は、父上もご存じのはず」
「そのお前の許嫁に、鷹取の嫡男、恭介が見合いを申し込むそうでな―――。成人を迎える恭介には祓いの力がない。鷹取家にも色々事情があるのだろう」
「私には関係のない事です。」
「お前に関係がなくとも、祓い屋の力を絶やさぬためには必要な事だ」
「―――……」
息子ですら、道具にしか扱わぬ父の言葉に、理玖は奥歯を噛み締めた。
家の事情など知った事ではない―――と、叫んでしまいたかった衝動を咄嗟に抑える。
そんな理玖の苛立ちを煽るかのように、父は話しを続けた。
「恭介は祓いの武器を作る能力に秀でている。高専を卒業した後は鷹取家の長男として家を守りながら武器づくりに専念するだろう。前線に出て闘うお前達とは違い、人外との戦いで命を落とす事もなければ、妻にその心配をさせることもない。お前は、“幼馴染”として鈴花に笑っていて欲しいのだろう？」
(相変わらず、嫌味な言い方を仕掛けてくる。俺が鈴花を好きだと知っていながら―――)
理玖が、鈴花に笑っていて欲しいのは確かだ。
だからこそ、強くなろうと決めた。彼女に心配をかけないくらい、他の誰よりも彼女を守れるようにと努力した。
だが、いくら努力を重ねようとも理玖の力では祓えない人外も多い事は確かであり、その度に、怖がりな鈴花の笑顔を曇らせてしまう事も、また事実。
―――つい先日だって。鈴花に助けられなければ、“影”を喰われていただろう。
(悔しい……何も、言い返せない)
―――俺では、鈴花を守れない？
彼女を幸せにできない？
力が欲しい 強くなりたい・・・
鈴花や、せめて手に届く大切な人を守れるだけの力が欲しい―――
俯き拳を握り締める理玖を見下す父。そんな時、障子の奥から声がかかる。
「そう、虐めてやるな。お主だって竜胆(リンドウ)を心配させてばかりだったじゃないか」
音を立てず、二人の話す部屋の障子にもたれかかる老人は、無精ひげを片手で撫でながらにんまりと口元を綻ばせた。
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