Place 14 Zクラス �� ページ39
「うちは、理玖のその素直な“音”は、好きだよ？」
「荒れてるって―――言ったくせに」
演奏を続けながら、アリサを睨んだ理玖。
「綺麗なだけの音は、つまらん。理玖が悩んだり、苛々したり、辛かったり――そう言う感情が乗せられた“音”は聴いていて楽しい」
「感情が乗った音？」
「ほら、この前の“はろうぃん”だったか？！うちが理玖に猫耳カチューシャを無理矢理つけられたアレだ！」
“無理矢理”…の所に棘を感じた理玖だが、あえて聞き流すことにした。
「あの時のヴァイオリンの“音”はとても楽しかったな！空から聴いていたが、酒が進みそうな、パーティのような音だ！」
パーティのような…楽しい音―――
アリサの言葉に、楽しさをイメージして弦を動かす理玖。
だが、どうも楽しさが音に乗らない。
「違うな―――それは、迷いと苦しさの音だ。理玖さぁ、何も考えずに思いのままに弾いてみな？」
―――何も考えずに…。なんて、無理だ。
頭の中はぐるぐる…。自分では足元にも及ばないような、強くて未知なる人外が沢山いる。それを祓えなくて、チームメイトにも鈴花にも危険な思いをさせてしまった。
悔しい…強くなりたい―――
もっと、もっと―――
強く………。
割れるように尾を引く音で、演奏を終えた理玖。
屋上の柵に腰を掛けていたアリサはパチパチと手を鳴らした。
「良いな、ゾクゾクする！！！それがデュオニソス、荒々しい感情の乗った音だ」
腹立たしさや決意の思いが、自然の手を動かしていた。気が付けば少し息が上がり、額にはじっとりと汗が浮かんでいる。
心地の良い倦怠感が全身を襲う。頭の中で蠢いていた感情をすべて音に吐き出したことで、残っているのは爽快感だけ。
―――楽しい。これだから、音楽は楽しくて、止められない。
理玖はにんまりと口元を綻ばせた。アリサの言葉にまんまと乗せられ、気が付けば挑発されるままに弦を動かしていた。目の前の彼女は、満足そうに口元を綻ばせている。
「うん。実にいい肴だった！その礼に、シェアハウスまで送ってやろう！」
そう言うと手を差し出すアリサ。彼女の手を掴み返すと、仕舞っていた大きな羽を羽ばたかせ、空に舞い上がる。
片手に酒を入れた紙袋、もう片手に理玖の腕を持ち、夕暮れに赤く染まった空を舞った。
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