Place 10 蠢く影の唄 �� ページ14
金具がカーテンレールを勢いよく滑る。
「どういう―――事だ…」
カーテンの開けられた壁を見て、最も驚いたのは理玖だった。
「―――……」
呆気となる彼に変わり、レイピアを構えたままカイルが壁に手を当てて探る。
そこには、ただ白い壁が一面に広がっており、仮面を被った人型ところか文様一つ見当たらなかったのだ。
「特に、変わった様子は見られないが―――」
和希とカイルの視線が、理玖に集まる。
「―――おかしい。確かにこの壁一面に、道化師の仮面を被った人型が十字に張り巡らされていたんだ……」
とはいえ、6人で目を凝らして見てみても、壁には釘一つ打った後が見られない。
「恐怖や不安は最も伝播しやすい……理玖側にはライトもなかったわけだし、見間違えた可能性もあるんじゃないか？」
「そんな…(あれが、見間違いだと―――まさか！)」
理玖は頭を抱えながら昨夜の事を思い出す。部屋に入って…ランが座り込んでいるところを見て、道化師の仮面を被った人型の何かが壁に十字にかけられて―――。
だけどそれは、“生の音”がしなかった。
人型だけど、人じゃない…薄暗くて、見間違えた？
考えれば考える程、思考が混乱する。現に、一面に白い壁には何もかかっていない。
何かを打ち付けた傷もなければ人型に見間違えそうな滲みも見当たらない。
苦しそうに頭を抱える理玖を、不安げに見つめる鈴花。彼女には、理玖が嘘をついているとは思えなかった。
「理玖君……。そういえば、ランちゃんも昨日その人型を見たって……」
鈴花の一言で、今度は出入口付近で青い顔をして立ち尽くすランに、視線が集まる。ランは視線を逸らし、おどおどとした口調で話し始める。
「僕は…、僕もあの時は動揺していて。実際に壁に何もなくて、見間違いかと言われたら、自信がなくなってくる―――もしかすると、壁に出来た影を、人型に見間違えてしまったんじゃないかって」
彼女自身も、この状況に動揺しているのが見て取れた。
何かの影が、そんなふうに見えた？
―――影？ … 何の―――？
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