Place 10 蠢く影の唄 �� ページ11
「毛布の隙間から、前を見て…絶対に声を上げちゃダメだよ―――」
鈴花は言われた通り、二重に被った毛布の隙間から、ちらりと外を覗き見た。
パチパチと燃える暖炉の炎が、ゆらゆらと揺れるテーブルやコップの影を作る。
今は理玖が火の番をする時間なのか、和希とカイルも隣のソファーの両端で、毛布を被って寝ているようだった。
鈴花は毛布の隙間から覗き見た異形にギョッとする。
思わず、理玖の腕をぎゅっと握った。
「―――声を上げないで。いい？鈴花―――この野外活動が終わるまでの残り6日…信じるのは自分だけだ。大事な物も大切な人も、過度に信用はしない事。」
「―――理玖も……？」
「そう。何か変だと思ったら、自分を信じる事。俺よりも、鈴花は自分の事を信じていて」
「そんな……」
鈴花の手が、小刻みに震える。
一気に不安の波が気持ちを覆いつくしていく。そんな彼女の手を、毛布の下からぎゅっと握り返す理玖。
「大丈夫―――何とかする。鈴花だけは、絶対に守るから」
理玖の手を握りながら、鈴花は再び毛布の隙間から部屋を見た。
その異様な光景に息をのみ、叫び出したい気持ちをグッと抑える。
暖炉の炎で映し出されているはずの影が、炎の揺れとは関係なく蠢いていた。
まるで、意思を持った生き物のように―――。
・
・
・
長い夜が明け、窓の外から青い薄明かりが差し込む。
異様な光景を見た後、暫く怖くて眠れずにいた鈴花だが、たまった疲れと頭を優しく撫でる理玖の温もりにいつしか眠っていたようだ。
「―――ん」
「おはよう、鈴花」
布団の中で小さく上げた声に気付いた理玖の声が降ってくる。
くるまった毛布から顔を上げると、ニコリとほほ笑んだ彼がいた。
(理玖がいる…)
ほっとしたのもつかの間、埃っぽい部屋を見渡すと、一気に現実へと引き戻された。
薪が切れ、暖炉の火は今にも消えてしまいそうだったが、一晩持っただけでも有難い。
「おはよう、理玖…君」
鈴花の声を確認すると、彼女の隣にドサリと腰を落とし、額をくっつける。
「？！！(顔、近いっ！)」
「眠れた？体調は―――大丈夫？」
「―――うん」
顔が火照るのをばれないように、視線を逸らせる鈴花に耳うちする理玖。
「色んな事がきちんと分かるまで、昨日の事は、誰にも言っちゃダメだよ―――」
Place 10 蠢く影の唄 ��→←Place 10 蠢く影の唄 ��
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
