【Avatar Code（アバターコード）】 (ページ46)

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Code No　07　形見　① ページ46

「ただいま……」

深いため息と同時に、アパートの玄関ドアを開けるAに、仔犬のように駆け寄ってくる凪。

「お～か～え～りぃ！！Aさん」

玄関を一段上がったところで、満面の笑顔で両手を広げる凪。
先程までの疲れが一瞬で消え、嬉しさと少しの恥ずかしさが頬を染める。

ハグ禁止のルールがある為、凪は自分から抱き着いてこない。代わりに、狭い廊下を防ぐように両手を広げ、分かりやすいサインを出す。

結果的に、Aから凪にハグを許す形となる。これはこれで、なんだか悔しいが――――。

仕事の事を考えて悶々とした気分で帰宅したAにとっては、気持ちをプライベートモードに切り替えてくれる癒しの瞬間でもあった。

そっと、凪の首元に顔を埋めると、凪はよしよしと子供をあやす様にAを抱きしめ、頭をポンポンと撫でた。初めは照れ恥ずかしさが勝り、素直になれなかったAだが、回数を重ねるうちにこのハグが当たり前のようになり、自然と凪の腰に手を回す自分がいた。

「夕飯で来てるよ！今日はクリームシチューにしてみた！」
「クリームシチュー？」
「うん！早く着替えてきてね？」

嬉しそうに微笑むと、先にダイニングへと向かう凪。
Aは洗面で手洗い嗽を済ませた後、スーツを着替えに自室のドアを開けた。

真っ暗な部屋を見て、思わずため息が零れ、口元をにやつかせる。
凪がこの家に住み着く前は、ただいまといっても返事のない部屋に無言で入り、音と言えばテレビから流れるさして面白くもないバラエティ番組の笑い声。
それが、玄関を開けた先が明るく灯り、満面の笑顔で“おかえり”を返してくれる。誰かが近くにいる当たり前が、幸せと感じてしまう。

そう言えば、凪の親は海外にいて、山手にある家に独り暮らしだと言っていた。
疲れた顔で帰ってくる自分との生活を、凪も少しは、幸せと感じてくれているのだろうか―――。
本当はこんな些細な幸せを求めて、この家にいたいと、言ってくれたのだろうか。
淡い期待が、Aの胸をくすぐった。

凪と一緒に住み始めて、Aに生じた変化はそれだけではない。
普段なら、部屋着と言えばスエット上下に、肩までの髪を一つにまとめるだけの楽な格好をするのだが、子供とはいえ家に年頃の男の子がいるとなれば部屋着にも少し気を使う。