Code No 06 奪われたマテリアル �� ページ42
―――NO8が消息を絶った。
それは、聖倭大学クラーク研究室に飛び込んだ、あまりに衝撃的な悲報だった。
かつてBMI研究の第一人者とも言われ、大学の名誉教授を務める研究室長、水月＝クラークは緊急事態だとアポイントメントなしで訪ねてきた空軍本司令部総長の山南に目を細める。
初めは、空軍が何の用だと怪訝に扱っていた水月だが、総長自らの来訪にただ事ではないと部屋に通したのだ。
「そもそも、NO8は我が大学とも親交の深い、神鴻大学理工学部に貸出を行っていたはずだが、それがなぜ空軍にあるというのです」
「………それは―――」
言葉を詰まらせる山南を、静かに睨みつける水月。
山南は覚悟を決めて、テーブルに両手をつき、深々と頭を下げた。
「新マテリアル…いや、シュテルンバームは我が国の国防に欠かせない存在。人々の安全を守るために、神鴻大学に助力を頂いていたのだ。」
「結果。大事なシュテルンバームは何者かに奪われ、国民の安全が脅かされる事態になっていると言う事ですね。」
「誠に、かたじけない―――」
水月は小さなため息をつき、山南に顔を上げるよう促した。
「シュテルンバーム開発者は、それを貸し出す際、人類の安全と科学の発展のためにと使用目的を限局し、絶対に軍用化しないという条件を出した。どういう理由があってかは知りませんが、神鴻大学側はその約束を無断で破棄し、空軍の手に渡したと言う事ですね。」
「――――――人類の安全と科学の発展のための研究に変わりはない！私利私欲のために使おうとしたわけではない、我々は―――！！……」
声を荒立てる山南は背後に気配を感じ、言葉を止めた。
その殺気にも似た気配に、数々の軍用訓練を超えてきたはずの総長の勘が、危険を感じ取った。
一瞬にして、冷たい汗が山南の背筋を伝う。
「責任を、どうとるおつもりで？」
後ろを振り向く間もなく、正面に座る水月が射るような視線を浴びせる。
「必ず、奪還して見せます。空軍の誇りにかけて―――。それには、貴方のお力をお借りしたい」
山南は、再び両手をテーブルにつけた。
「随分と、虫の良い話ですね――― 一応に、伺いましょうか」
「NO8の効力を無力化するプログラムを、お借りしたい」
「………それを、どうするおつもりで？」
表情を崩すことなく、彼を視線で射貫く水月は静かに訊ねた。
「国民に危険が及ぶ前に、NO8を無力化する。そしてそれを、回収する」
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