裏 Stern Baum ～Coffee Break～ (ページ43)

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Cups　３　二人ぼっち　⑰ ページ43

カリフォルニア現地時間の早朝、立夏から連絡を付けた識はメールで紹介状の返書だけ飛ばし、職場には急遽の休みを告げて調整を依頼した後、その足で空港に向った。Aの両親には空港への道中に連絡を行い、念のため白木にも日本に渡る旨を告げてきた。

「えっと…立夏？」

それにしては雰囲気の違う白衣の男に戸惑う識。

「初めまして。当直帯で“Aの主治医”をしていました、内科の牧野十夜です。今は脳神経内科に引継ぎ、暫く入院治療の予定です。」

そう言ってニコリとほほ笑むと、識に右手を差し出した。その手を握り返す織。

「カリフォルニアで“Aの主治医”をしている心外の九暁織です。内科の牧野……？もしかして、紹介状を俺にくれたのは貴方でしたか？病院の個人メールに直接送られてきたので、てっきり外科の牧野立夏からかと思っていました―――。」
「あの紹介状は、読影医の報告書を元に立夏が作成した物です。“主治医が私”だったので苗字だけで送りつけたのでしょう…大変失礼しました」

“主治医が私”―――。先程からわざわざ強調された言葉に、内心で心を引きつらせながらも、表情に出さぬようにと注意を払う識。

「十夜先生は血液内科のご専門で、先日から疾患の事でご指導頂いていたの…立夏のお兄様よ！」

Aが十夜を紹介すると、十夜は腰を屈め、彼女の唇に人差し指を当てた。

ふにっ。
Aの唇が、柔らかく反発する。

「A、俺の事は十夜♡と呼ぶように言ったろ？」
「～～～～～～ッっつ！！！私で遊ばないでください！」

耳を赤く染め、近くにいた識の腕を引っ張り、その手に顔を埋めるA。

(……何、可愛いコトしてるんだ？この子は～～～)

識はAに微笑みかけポンポンと頭を撫でると、十夜に対して満面の作り笑顔を返した。

「お役目どうも！Aの事は俺が診ますのでお構いなく仕事に戻ってください、十夜先生？」

すると、負けじと十夜も作り笑いで返答する。

「わざわざカリフォルニアからお越しいただかなくても良かったんですよ？九暁先生。時差もありお疲れでしょうから、今日はホテルにお戻りになってお休みになられたらいかがです？Aは俺が診ていますから」

双方笑顔の裏で、口元を引きつらせる。互いに一歩も引く気は無いようだ。