裏 Stern Baum ～Coffee Break～ (ページ5)

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Cups　１　con tenerezza　⑤ ページ5

碧は両手を広げて見せた。

「そういや、なんかごそごそ弄っていたな…
　確かこの辺に一式置いて――――あった！」

アルグレードは暫く顎を抱えて考え込み、思い出したようにピアノの下を覗き込むと、ピアノの下からトランクケースを取り出した。

「こんなもの、どうするんだ？」

「ミックスジュース、お願いしますね」

ニコリと微笑を返すと、トランクケースを受け取る碧。
その間にも、新たな客が店を訪れた。

不思議そうに首をかしげながらカウンター奥に戻る背中を見送ると、
碧はピアノ椅子にトランクケースを置き、中身の確認を始めた。

トランクケースの中には、工具や調律器具が比較的綺麗な状態で保管されている。

「大事に、使われていたんだね。お、電子チューナーもある」

碧はピアノのカバーを開け、鍵盤の端から端まで指を走らせた。
店内に軽快なピアノの音が響き、客たちが手を止める。

「excuse me！Please don't be upset or offended．(失礼、気にしないでください)」

店内の客に断りを入れ、弦の間にウエッジを差し込むと、中央のラ音を確認し、チューニングピンを回していく。

「どう？」

隣で碧の作業を、興味深げに覗き込むA。

「うん。かなり状態は良いよ！アルのあの言い方から、暫く放置されていたのかと思ったけど、
きっと定期的に調律師がメンテナンスを行っていたんだね」

「大事な人が、使っていたのかしら？」

「多分」

今から思えば、アルグレードに関しては知らない事ばかりだ。

識の友人であり、ビスカムアルバムのマスター。
流暢な日本語を操り、以前日本にも来ていた事があると言っていたが……。

「何か、リクエストはある？」

碧は鍵盤の前に座ると、ちらりとAに視線を向ける。

「そうね……アルと、夕暮れ時のお客さん達の心が癒されるような曲で―――」
「OK！Aは、優しいね―――」

そう言うと、碧は鍵盤の上に両手を滑らせた。
優しく奏でられる旋律は、彼のオリジナルだろうか―――

美しく、切なく、幻想的でとても愛おしいメロディ。

ビスカムアルバムで夕暮れ時を楽しんでいた客たちも、手を止めてその音に聴き入る。
珈琲を飲みながら、懐かしそうにピアノを見つめる客もいた。

客に珈琲を運ぶアルグレードに、なじみの客が話しかけた。

「日本人かい？とても素敵な音だ」

「ああ、俺の友人なんだ」

「白い宿木に、また”音”が戻ったようだ。
優しい音色が、チナに似ている」