11-2 ページ32
｢おお、Aじゃねえか｡……知り合いか?｣
粘りに粘っていたら肩に逞しい腕が回って、少し後ろに引き寄せられた｡
｢あ、キラーTさん｣
｢な、何でキラーT細胞が……｣
キラーTさんにビビったのか、掴まれる力が少し弱まった｡チャンス!と思って手を払うと、あっさりと離れる｡
｢で?｣
で?ああ、質問に答えろってことか｡
早く答えないとただでさえ重い空気が、余計不穏になりそう｡
｢知り合いじゃないです｡でもちょっと問題があったみたいで｣
｢仕事か｣
｢はい｡でも私じゃ対応できないんです、担当じゃないと……｣
チラッと後ろを見ると、キラーTさんがギロリと細胞をにらみつけていた｡うっわ、怖っ｡細胞、めっちゃ怯えてるじゃん｡
｢ならお前は何で連れていかれそうになってんだ｣
あ〜声もなんか怖〜い!私悪いことしてないのに〜!これ嘘ついたら針千本じゃ済まないやつ〜!
｢埒開かないから、実物見にこいって……｣
素直に白状すれば、へえ……と何か含んだような声が返ってくる｡何企んでんだ｡
｢じゃ、俺も一緒に行くわ｣
え、という声が細胞の方から聞こえてきた｡おい大丈夫か、汗すごいぞ君｡クレーマーとはいえさすがに心配になるレベルだぞ｡
｢なんだよ、文句あんのか?｣
｢いや、あの……｣
｢たまには赤血球の仕事見学でもしようかと思ってな｡いいだろ?｣
｢や、やっぱり大したことなかったので来ていただかなくて大丈夫です!失礼しますっ!｣
冷や汗止まらないまま、彼は逃げるように走り去った｡何だったんだろう｡ったく、大丈夫なら最初から文句言わなきゃいいのに｡
｢なんかよく分かんないけどありがとうございました、キラーTさん｣
取り敢えず追い払ってくれたキラーTさんにお礼を言った｡おかげで仕事がはかどります｡
なのに何故か彼に深いため息をつかれた｡何でやねん｡
｢お前なあ、もう少し危機感持てよ……｣
｢ちょっと意味が分かんないんですけど｣
嘘｡本当はちょっとじゃなくて全然キラーTさんの言いたいことが分かんない｡
もう一度キラーTさんはため息をついてから、｢まあ、いいわ｣って言って回していた腕を離してくれた｡
｢せいぜい仕事頑張れよ｣
ヒラヒラと手を振って、キラーTさんは私に背を向けて行ってしまった｡だから私はその背中に向かって大声で｡
｢キラーTさんも、トレーニング頑張ってくださーい!｣
って言って、配達先の方向へつま先を向けた｡
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 43人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年9月19日 17時
