逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ42)

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タバコの匂い_4 ページ42

「…」

“松田さんと一緒にいると、すごく落ち着くというか、安心するのは、
タバコの匂いのせいかも、しれないですね”

(なんか今、割と凄いこと言われたような気がするのは、気のせいか？

…ってか、何で礼を言われるんだ…？)

サングラスの奥でまばたきを繰り返しながら、
葵が去った喫煙所の出入り口を見つめる松田。

(…。何なんだよ…アイツ。)

何故、思考を支配してくるのか。

いかにも美人で、いわゆる”女”を感じさせる女。
可愛らしく、男に頼り依存する女。
遊びで言い寄ってきた女。

これまでに言い寄ってきた女、付き合った女とは全く違う。

一人で多くを抱え、
真っ直ぐに犯人に立ち向かう強さを持ちながらも、
過去とは向き合うことが出来ない弱さから、子供のように泣きじゃくっていた葵。
1人で受け止めることが難しく瞳を潤ませながらも、
自分でちゃんと向き合いたい、
と、ゆっくり松田の腕から離れた葵。

何故、こうも自分の思考を支配し続けるのか。
松田は、”それ”について、これまで全く考えなかったわけではない。

これまで、過呼吸を治すためとはいえ口付けたり、
泣いている葵を抱きしめたり、と、
それは衝動的な、無意識的な、行動だ。

それに、
倉庫での一件も。
あの日、刑務所前での一件も。
松田にとっては少なからず衝撃的な”事件”において、
関わった、人物だから、だ。

ただ、それだけ。
そう、思っていた。