逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ41)

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タバコの匂い_3 ページ41

『父は、喫煙者で…
非番の日はよく、
庭でぼんやりタバコを吸っていました。
夜遅くに、難しい顔をしながら吸っていることも、しょっちゅうでした。

小さい頃は、
タバコの煙は悪いものだから、
吸っている時は近づいちゃダメって言われてましたけど、
遠目で見ていたその姿は、よく覚えています。
…思い出した、んですが…。

一度、何でタバコを吸うのか聞いたことがあります。
そしたら、
こうやって頭を整理してるんだって、
もやもやしたときは、こうやって頭をスッキリさせてるんだって、
そう言ってました。』

「…」

松田は紫煙を吐きながら、静かにその話を聞いていた。

『その…

色々あって、
頭の整理なんて全然出来ていませんでしたけど…

弁護士になって、
責任ある仕事を多々目の前にして、
…理不尽なことも色々目の当たりにして、

何となく、父が言っていた”タバコで頭をスッキリさせる”っていうのを思い出して、
何となく、始めた…という感じ、でしょうか…

口から吸うのは苦手なんですけど。』

「何となく、ね…。

…思い出して辛くならなかったのかよ。
その…タバコで。」

松田は、
苦しそうに父親の事件のことを話す葵を、
泣きじゃくる葵を思い出し、
そう、問いかける。

『はい…。

不思議なんですけど、
父のこと、あの事件のこと、
全然向き合えてなかったのに。

タバコの匂いは、父を思い出すから嫌い、
という気持ちも確かに少しあったんですが、
それ以上に何故か落ち着く、というか。』

「…へぇ。」

『…警察の人はやっぱり、嫌い...、苦手...ですけど、
松田さんと一緒にいると、
すごく落ち着くというか、
安心するのは、
タバコの匂いのせいかも、しれないですね。

ありがとうございます。』

勝手に納得したように、小さく笑いながら、
自身のタバコを灰皿に入れる葵は、
「それじゃあ、お疲れ様でした。」
と、そのまま喫煙所を出ていった。