逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ40)

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タバコの匂い_2 ページ40

ふぅ、と紫煙を吐き出す松田、
と、タバコには口をつけないままで右手から紫煙をくゆらす葵。

松田が、ちら、と葵に視線を向けると、
その姿はいたって平静。
右手にタバコをもったまま、
ただ、静かに、そこにいるだけ。
この警視庁で
初めて”弁護士”としての結城葵と出会った日のことをぼんやり思い出し、
その表情を緩めた。

「…なぁ。アンタ、
タバコ、いつから吸って…じゃ、ねぇな。
それ、いつからやってんだ？」

『え？』

「その、吸わねぇタバコを使った、
頭の整理ってやつ」

『…えっと、
たぶん、弁護士になってから…
です』

松田の口から吐き出される紫煙に、
葵は、小さく、柔らかく、目を細める。

「へぇ…

でも、アンタ吸わねぇ、よな。
もともとは吸ってたのか？」

『いえ、そうじゃ、ないですけど…』

「…やっぱ、変な奴だな。アンタ」

『…。

…父の、影響なんです』

右手のタバコから落ちそうになる灰を、
喫煙所の灰皿に落としながら、
一瞬口を閉ざし、葵は話し始めた。

父親の事件と、
今更ながら、徐々に向き合えるようになったのは、先日の、彼の、おかげだ。
そして、香織と同じく、
あの件を誰にも口外しない松田のおかげで、葵はあの日″只の体調不良だった″ことになっている。

これまでの、
そして、先日の一件で、
葵は、松田への信頼感を確実なものにしていった。
恋だの愛だの、そういうことに結びつける思考は、
持ち合わせてはいなかったのだが。

これまでなら確実に閉ざしていただろうその口は、自然と動いていた。