逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ38)

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結城　葵_5 ページ38

松田の胸に顔を埋め、
いや、松田がそうさせているのだが、

ポツポツと話す葵の言葉を、
松田は、静かに、ただ聞いていた。

『まだ、時間が、
かかりそうです…。』

「だったら、頼りゃいいじゃねぇか…。

アンタが、
アンタだけじゃ、
上手く向き合って、上手く受け止めれねぇなら。

アンタの友達も、

俺も、

一緒に、受け止めてやる、から」

松田が抱きしめる腕に力を入れると、
ありがとう、ございます…
と、葵は小さく声を漏らした。

『でも、
やっぱり、ちゃんと自分で向き合いたいんです。
こんな、情けないところばかりお見せしてしまって…ごめんなさい。

…でも、そう、思えたのは、
やっと、そう思えるようになったのは、
松田さんの、おかげです。
ありがとう、ございます。』

そして、
やんわりと松田から身体を離すと、
未だ瞳を、その頬を濡らしながらも、
しっかりと松田を見つめ小さく笑った後、
マンションの中へと入っていった。

自身の過去を、
その全てを、
いわば“正しく”受け止めて、向き合おうとしている人物。
”結城葵”、その人を見つめながら、
松田は、それ以上何も言えなかった。