逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ35)

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結城　葵_2 ページ35

次に葵が訪れたのは、
結城家の、墓だった。

父親の命日、母親の命日には、
もちろん必ず訪れている場所だ。

しかし、
生前、父親と半ば事務的に会っていたように、
“儀式”のように、葵はそこで手を合わせることしか出来なかった。

(お父さん…)

墓にゆっくり水を掛けながら、父親に、話しかける葵。
こうして、墓前でちゃんと向き合うのは、初めて、だ。
少し肌寒い風が頬を撫で、
供えたばかりの花が、静かに揺れた。

カバンに手を入れ、
取り出したのは、
2枚の写真、だった。

1枚は、
隼人、真人を含む若宮家の4人と、
父と、映った写真。
隼人が高校生。葵がまだ中学生だったころ、
皆で米花町の花火大会に行った時の写真、だ。

そして、もう1枚は。
葵が父と2人で映った写真。
葵が高校生の頃。
まだ、隼人の事件が起こる前。
あの米花中央公園に、2人で花見に行った時の写真だった。

普段は不器用な父が、
気恥ずかしさを見せずに、
他の客にカメラを渡し、撮影を頼んでいた様子を思い出す。

それらの写真は、
葵が引き出しに入れたまま、
この数年間、
どうしても触れることが、目にすることが出来なかった、ものだった。

『お父さん…

…ごめんね。
ごめん、なさい…』

目の前の写真の中の父に、
目の前の墓に眠る父に、
その口から謝罪を繰り返しながら、

その目からは、徐々に雫がこぼれ落ちる。

『…っ。』

あの日、松田の前で決壊してしまった感情。
これまで閉ざし続け向き合ってこなかった感情は、
そう簡単に、綺麗に受け入れられるものではない。

『…っ。ごめ… んね….』

胸に手を当て、ゆっくり息を吐きながら、
落ち着こうと努力する葵だが、
その目から溢れる涙は、簡単に止まってはくれなかった。

しばらくして、ようやく落ち着いた葵は、
今度は母親へ言葉を掛ける。

『…お母さん。
ほとんど、覚えて…ない、けど…、お父さんのこと…、よろしく…ね』

またも涙腺が緩みかけるのを、
ぐっと目を閉じて堪える葵は、
大きく息を吐くと、

また、来るね、という言葉を残し、
葵は墓地を後にした。