逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ31)

今日:12 hit、昨日:43 hit、合計:57,406 hit

隠し続けた罪悪感_4 ページ31

葵が家を出てから、
杯戸町にある実家に帰ることは、なかった。
しかし、気まずい雰囲気を残しながらも、
葵は父親と半年に一度ほど顔を合わせていた。
しかし、葵にとって、
その会話は淡々と近況報告をするようなものだった。

隼人の事件で、

“なぜ隼人があんな目に遭わなければいけなかったのか、
市民を守る正義の味方のようなふりをして、
罪のない人間を傷つけ、追い詰めるのが警察、なのか、
そんな職業なんて、最低だ”

葵は八つ当たりのように、警察である父親に、自身のやり場のない怒りをぶつけた。
捜査を担当したのは、おそらく公安。
父親の所属でもなく、葵の言葉を借りるなら、
“理不尽”な八つ当たりだった。
しかし、当然当時の葵は、そんな冷静な思考は持ち合わせていなかった。

隼人の事件を引きずり続ける葵が、
事務的な近況報告の中で、
父親に素直に謝罪することは、できなかった。

しかし、弁護士を目指し勉強を続ける大学生活の中で、
また、そこで出会った香織の影響で、
少しずつ冷静になり、
過去と、きちんと向き合わなければと、
そう、考え始め、父親にふとメールをしたのである。

“話したい事があるから、会いたい。”と。
それは葵が21歳の時のことだった。

父親は当日は本来非番だったのだが、
“仕事が入った。数分程度で悪いが、米花町でなら会える。”
と、いう簡素な返信に、
米花中央公園という待ち合わせ場所を指定したのは葵だった。

自分が呼び出した、ことで、
父親が死んでしまった、のだ、と、

そう、呟く葵を見て、

ずっと、罪悪感を抱き続けてきたのだろうことを、
知り、松田は悲痛な表情を浮かべる。

香織は、
″大丈夫、って、葵、それしか言わなくって…″
と、泣きそうな深刻な顔をしていた。

逃れることは許されない、
逃れることのできないその感情を、
ずっと抱き続けながら、
そして、隠して続けながら、生きてきたのだろうか。

そして、
"あの光景を忘れられない"
そう叫んだ先ほどの葵の言葉を思い出した。