逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ28)

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隠し続けた罪悪感ページ28

「…だからって…
こんなやり方、なのかよ…」

その松田の言葉に、葵は再び口をつぐむ。

「何、なんだよ…」

訳がわからない、
理解したくても、それを頭が拒否する、
そんな感情が、松田の思考を支配する。

刑事として、
何度も犯人と対峙した。

身勝手な動機、
理不尽な動機、
やりきれない動機、

様々な事情による犯行を目の当たりにして、
それを実行した人間を目の当たりにして、

似たような感情になったことは、これまでにも何度もある。

しかし、
今、松田が目の前にしているのは、
“犯人”、ではない。

もちろん、葵がしようとしていたことを鑑みれば、
銃刀法違反で逮捕される状況だ。
しかし、少なくとも松田にとっては、
その対象、ではなかった。

“結城葵”という人物。
偶然、帰り道に目の前で通り魔に襲われかけ、その男を投げ飛ばした女。
コンビニ強盗事件で、
松田に自白を強要されたと訴えてきた木本の弁護をしながらも、
その訴えが虚偽であったことを暴いた変な女。

事務所が狙われた時、
理不尽な動機で犯行を行うような人間が、
爆弾を使うような、卑劣な人間が許せない、と呟いた女。

迷子になった子どもの親を、モールにいる大勢の中に探しに行った女。
観覧車で、犯人を殺したいほど憎いことがあるか、と唐突に聞いてきた、女。
ストーカーに遭っていながら、その相手を自分で特定し、
その男に脅しのように忠告し、正面から対峙した女。
あの倉庫で、
秋野の娘までも殺そうとしていた永澤に、“理不尽”だ、と抗議し、立ち向かった女。

幼馴染の若宮隼人の事件から弁護士になった、女。
そして、未だその事件を引きずり続けている、女。

そして…
身勝手な動機による犯行に巻き込まれて殺された父親のことを、
受け止められない、女。

それが、
目の前の”結城葵”なのだろう。
初めて会ったとき、凛とした様子で松田と向き合っていた彼女とは、まるで別人のように、
あまりにも弱々しい姿の葵を目の前にして、
松田は、理解したくても、それでも、理解できないように、
それでも、どこか大事なものを見るように、
苦しそうな表情を浮かべていた顔を、さらに歪めた。