逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ26)

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過去との対峙_8 ページ26

『…』

人通りのない刑務所前の路地に、
しばしの沈黙が流れる。

『そうなったら…

その時は、
やっと、謝りに、行けるから…』

「…は？」

その目を大きく揺らしながら、
弱々しく言葉を紡ぐ葵。
しかし、それよりも消え入りそうな声で、
松田が声を漏らし、
目の前にいる葵をただ、呆然と見つめる。

『父に…

…隼人兄ぃにも。』

「アンタ…
自分が何言ってんのか分かってんのか…？」

松田が我に返ったように呟く。

「何なんだよ…
アンタ、マジで何なんだよ…！

本当の事を知らなきゃいけねぇとか、
弁護士なのに、アイツ…木本の嘘を暴いたり、

アンタの事務所が狙われた時だってそうだ。
理不尽な、卑劣な犯人が許せねぇって…、

あの倉庫で、永澤にだって、
”秋野の娘に復讐するのは理不尽だ”って、真っ直ぐぶつかっときながら…

あの、ストーカー男にだって、
腹が立ってきたとか言って、真正面からぶつかっときながら…

何で、
アンタ自身のことは、
アンタが一番辛ぇだろうことは、

こんな…
こんなやり方なんだよ…！」

葵の肩を強く掴みながら、
松田は怒鳴るように言葉を吐き続ける。
怒りのような、
哀しみのような、
やりきれない感情をありのままにぶつけるかのように。

松田がなぜ、あのストーカーのことを知っているのか、
今の葵に、そんな思考回路が動くはずがない。
溢れそうにその目に浮かべていた涙が、
静かにこぼれ落ち始めた。

「刺されても…
死んでも良かったって…

何だよ…
何なんだよ…！」

苦しそうに顔を歪めて、松田が呟いた。

肩を揺さぶられながら、
葵は、目の前で俯くようにうなだれる松田を、
ぼんやりその目に映す。

「何なんだよ…アンタ」

苦しそうに呟き顔を上げた松田と、
目が合う。
しかし、それは物理的なもので、
葵の目は、松田を映していない。

「だったら…
アイツの弁護をした奴を問いただせば良いだろうが…」

『…。

…もう、死んでいるので。』

ポツリと零す葵は、
松田と、今度は視線を合わせた。
ぼんやり、と。

「…は？」

『…弁護士になって、

今の立場になって、
今なら話を聞けるって、思ってました。

でも…
もう、本人がいない以上、知ることは、できないから…』

「アンタ、まさか…」