逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ21)

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過去との対峙_3 ページ21

法定速度ギリギリのスピードで、
東都刑務所に車でかけつけた松田は、
付近に葵の姿を探す。

(…ただの推測だ。
あの、立花って女が、深刻に考え過ぎている可能性も十分にある。)

しかし、
これまでの葵の様子から、
松田自身、も、香織と似た推測を、してしまった。
ヒヤリ、と、頭が冴える。

あの時、部屋で葵の口から語られた話。

若宮隼人、の事件を引きずり続けてしまっていること、
その事件がきっかけで弁護士になったこと、

葵が抱えていたのは、
父親のこと、だけではなかった。

ただ、葵は父親の事件について、
父親については、
殉職をした、という事実を話しただけで、それ以上口を開こうとしなかった。

その一方で、”隼人”の事件については、
分かりやすいほどに、涙を流しながら、その後悔を口にした葵を見ながら、
松田自身、違和感を感じていた。

犯人を殺したいほど憎んだことがあるか、

観覧車で問いかけられたあの問いは、
父親を殺した犯人、つまり、江崎のことなのではないか、
そう、なのだろう、
と松田は思っていたが、
葵の答えはNOだった。

隠していただけ、なのか。
それとも、
江崎に対する感情は、もはや”憎む”とはまた別の…何か、なのか。

隼人の事件で、
彼が拘束される理由となった、
過激派組織のメンバーであった大学生は、
拘置所にて自ら命を絶った、と話す葵は、
諦めたような表情だった。

香織の言うように、
葵は、父親の事件については極端に触れたがらないような、
そんな、印象だ。
静かな怒りのようなものを感じることもあったが、
淡々と話す葵の姿には、確かに違和感があった。
事務所が狙われた事件で、あの屋上で、
犯人が許せない、と話す葵は、
怒りが見て取れ、今思えば、父親の事件を思い返しながら、
犯人を憎んでいる、
そんな、姿だった。
しかし、
あの港での爆弾事件。
松田が爆発に巻き込まれかけた事件の後、
葵が憎むであろう”爆弾”を用いた事件を目の前にしたにも関わらず、
父親の話をする葵は、
不自然なほどに淡々としたものだった。
無理に平静を装っている、
というよりも、
もはや無意識にそうしている、というような。

”爆弾”を、倉庫の爆破を目の前にしたため、か。
あるいは、江崎の出所が近づいてきていたため、なのか。

そして、それが、
彼女自身の傷の深さを反映しているのであれば、
抱えている”闇”のようなものを反映しているのであれば――

この、推測は間違っていないかもしれない。