逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ18)

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東都刑務所_2 ページ18

『あ、でも、
当時は、重い精神的な疾患を抱えていたようですね…』

「…！

あ、そ…そうなんだよ。
あのときは…」

職場でのいじめに追い詰められ、
死のうと思っていた。
通っていた精神科から処方されていた薬も合わず、
心身喪失のような状態になっていた。

主張するかのように、
言い訳のように、慌てて話す江崎。

「本当に…申し訳ないと、思ってて」

(…。)

とってつけたような謝罪を口にし、
急にしおらしくなる江崎を冷ややかに見つめ、
葵は心の中で嘲笑を浮かべた。

『…ちなみに、
どんな薬を飲んでいたか、など、覚えていますか？』

「え…えっと、確か、あれは…」

答えられない江崎。
そして、当時は心神喪失状態だったからあまり記憶はなく、
それに、刑務所で必死に更生しようとしている間に、
忘れてしまった。

そう、付け加えた。

―――

面会室を後にした葵は、
冷たい目を携え、
カチリと、
ポケットのボイスレコーダーをOFFにする。

耳に入るのは、
相変わらず、けたたましい声で叫ぶように泣き続けている蝉の声だけだった。