東都刑務所 ページ17
けたたましい蝉の鳴き声をどこか遠くに聴きながら、
葵は、無機質なパイプ椅子に座っていた。
冷たさが少し心地いい。
「…面会？アンタ、誰だよ」
東都刑務所の面会室。
アクリル板越しに姿を見せたのは、
一人の男。
『あ、突然すみません。
私、弁護士の”結城”と言います』
わざと、”ゆうき”としっかり発音する葵に、
男は、だから、誰だよ？と訝しげな表情を浮かべる。
『…。
何も、反応しないんですね』
「…は？」
小さくこぼした葵の言葉は、男には届かない。
「で、弁護士が何の用だよ？」
『実は、6年前の爆弾事件のことを、
エッセイに纏めようと考えていまして…
その、
江崎さん自身の事情や動機、もそうですが、
あれから、この、刑務所の中で、
どのようなお考えで過ごされていたのか…など、
お聞きできたら、と思いまして。』
「は？そういうのは、俺の弁護士通してくれよ」
『ええ。これから話をさせて頂こうと…。
それと、
“随分と精巧に”作られた爆弾について、
あの周囲を吹き飛ばしたあの爆弾について、
どのように知識や技術を得たのか、
その辺りもお聞きできたら、と』
さっさと帰れと言わんばかりの面倒臭そうな顔を浮かべていた、
目の前の男、江崎は、
爆弾を褒めるような葵の言葉に、
一瞬固まりながら、
誰にも見えないほどに、わずかに口角を上げた。
『かなり、
世間に、マスコミに、大きく取り上げられて騒がれた事件、でしたので…』
「…」
何も言葉を発せず、
しかし、どこか、自慢げなような、
そんな目に変わる江崎。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年7月10日 13時
