逃れられない想いとともに。(4)【松田陣平】 (ページ15)

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秋野弁護士ページ15

その日の朝。
茅野法律事務所は、ある話題で持ちきりだった。

8月も半ばとなり、
暑さによってただでさえ不快な表情を浮かべがちの神山は、
相変わらずギリギリの時間に出勤してきたかと思うと、
「許せませんね！」と、吐き捨てるように叫んだ。

“秋野弁護士、石川裁判官逮捕”
“弁護士と裁判官間の癒着”

今日の朝刊の1面は、それらの見出しで埋め尽くされていた。

事務所のTVは、
秋野弁護士の事務所や家宅捜索の様子を映し出している。
先月、警視庁に送られたという匿名の告発文。
“秋野弁護士は、裁判を有利に進めるため、
ある裁判官と不当な取引をしている”

そういった内容が並べられた告発文。
そして、証拠となるような写真や、接待と思われる食事会の領収書などが、
文書と一緒に届いたそうだ。

そして、警視庁が告発文の内容を元に捜査を続けた結果、
石川という裁判官との癒着が発覚したこと、
それだけでなく、
弁護対象である被告からは不当な金銭を受け取り、
取引に利用していたこと、
また、これまでの物的証拠についても捏造していた可能性が高いことが明らかになったらしい。
癒着していた裁判官以外の裁判官が担当になった場合も、
勝訴、あるいは高確率で情状酌量による減刑という判決に導いていたのは、まさにそういう理由だった。

「やり方が汚いと思ってたし、なんとなく怪しいとは思ってたけど、
まさかここまでとはね…

腐ってるわね。人間が」

以前、
法律事務所が狙われた爆弾事件の際の事情聴取では、
秋野に対してぼかすような発言をしていた茅野だが、
険しい表情をしてTVに目を向けていた。

「…僕が裁判で戦った案件も、
そういう汚い取引をしていたんでしょうか…
許せませんね」

「…最低、ですね」

同じく険しい表情で呟く白石の横で、
普段の可愛らしい雰囲気とは全く異なり、安田もまた、睨むようにTVを見つめていた。