重ねた謝罪_2 ページ2
翌日。
23時の海浜公園近くの港。
葵は再びそこに立っていた。
誰もいるはずのない港で、
コンテナの周囲を、
焼け落ちた倉庫の周囲を、
静かに歩く葵。
そして街灯の下、
意を決したように、
カバンの中から一冊の新聞を取り出した。
それは、3日前の爆弾事件の翌日の朝刊。
葵がどうしても目を通すことが出来なかった、
新聞だった。
“東都海浜公園横の港で倉庫爆破”
“予告状の男、逮捕”
あの日の事件の見出しが躍る、1面に、
ゆっくり息を吐きながら目を通す。
“数名の警官が負傷”
“犯人は、5年前に誘拐、殺害された永澤由紀ちゃんの、父親”
街灯が照らすそれらの文字を目に移しながら、
“死傷者” ”死亡” “松田”
の文字は、見つけることが出来ない。
(…。)
見落として、いるだけなのか。
見ないように、しているだけなのか。
倉庫の方を見つめて、
少し考えるような様子を見せた後、
葵はまたも終電ギリギリの時刻に、
澄川町へと戻っていったのだった。
昨日と同じく終電を降り、
澄川町駅の改札を出る葵。
もう、人の気配の消えた路地を歩き、
マンションへと向かう。
通り魔に襲われかけた路地。
本来なら通らないようにしている道であったが、こんな時間にも関わらず、足を踏み入れる。
(…。)
“アンタ、強えーんだな”
ニヤッと笑った松田の顔。
初めて会ったときの松田の姿が浮かぶ。
人気のない路地には、
かすかな風の音が聞こえるだけ。
葵はそのままゆっくり路地を進み、マンションへと向かった。
マンションの前で、
昨日と同じように、葵は向かいのアパート、松田の部屋をぼんやり眺めていた。
時計はすでに1時を回っている。
そこに電気が灯ることは、ない。
『…。』
目を伏せながら、
自身のマンションのエントランスへと入ろうとした時、
「…帰り、遅すぎじゃねぇ？」
葵の飛び込んできたのは、
いつか聞いたようなセリフ。
聞き慣れた声、だった。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年7月10日 13時
