重ねた謝罪 ページ1
それから3日後。
人気のない海浜公園近くのあの港に、
葵は、いた。
時刻は23時。
自宅に帰るには終電ギリギリの時間だ。
街灯は少なく暗闇が続く空間で、
焼け落ちた倉庫をただ見つめる葵。
周囲にはあちこちに、
立ち入り禁止のビニールテープが貼られている。
見つかれば、
またも事情聴取を受けることになるだろう。
――倉庫が爆破された日。
松田の姿が見当たらないその場所で、
ただ呆然としていた葵は、
その後の警視庁の事情聴取でも、心ここにあらずといった状態だった。
秋野の娘を助けたとはいえ、
永澤との共犯関係を疑われていた葵だが、
IT関連会社との打ち合わせにより、
偶然近くに来ていたこと、
それは、
茅野や会社の担当者が証言してくれた。
また、
どうやら安室の知り合いであることも何故か考慮に入れられ、
1時間ほどに渡る事情聴取の末、
葵はとりあえず解放された。
事務所では、
“偶然事件に巻き込まれた”と説明したが、
何故そんな場所に足を運んだのかと、
心配から散々叱咤された。
安田は、無事で良かったです…と、
涙を流しながらしばらく葵に抱きついていた。
事情聴取の後、
“松田さんは、どうなったんですか…”
口を開きかけるも、
葵は、その言葉を口にすることがどうしても出来なかった。
そして、昨日、今日と、
これでもかというほど仕事に没頭し平常心を保っていたのだが、
焼け落ちた倉庫を前に、
頭にやきついて離れない光景に、
今になって小さく体が震え始める。
大きな爆発音。
煙とともに上がる火の手。
そして、倉庫に現れた松田の姿。
すぐに追いかけると、
小さく笑った彼の顔。
(…松田さん)
大丈夫、大丈夫…
あの日、口にした言葉を、葵はまたも繰り返す。
何度も言い聞かせるように。
澄川町駅に着いたのは、
1時過ぎ。
終電で港から戻った葵は、
マンションの向かいのアパートをぼんやり見つめた。
2Fの角部屋。
松田の部屋だ。
真っ暗で、
当然ベランダにも人はいない。
この時間だ。
そんなの、当然…。
そう言い聞かせるように頭で呟いて、葵はマンションへ入っていった。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年7月10日 13時
