検索窓
今日:28 hit、昨日:3 hit、合計:62,164 hit

大観覧車_4 ページ39

「…」

知らない方が良いに決まってる、と、
思考を改めたのはつい先ほどなのだが、

葵がそれを知っているとは、
そして、まさかその事件について聞いてくるとは、
予想していなかったからだ。

そもそも、
結城警部が彼女の父親で、
そのことで爆弾に過敏に反応しているんじゃないか、
理不尽な動機が、爆弾などと卑劣なやり方が許せないと、先日、あんな話をしたのではないか。

およそ合っているだろうと考えていたにせよ、
それは、松田の勝手な推測に過ぎない訳だが。


『あ…すみません。こんな話。
せっかくの非番なのに、仕事のことなんて、困りますよね』

一瞬松田と視線を合わせるも
忘れてくださいと言わんばかりに、葵は伏せ目がちに視線を外した。



「いや...
あの事件は、捜査に加わっていた。刑事としてな。
この観覧車に仕掛けられていた爆弾を、
病院に仕掛けられていた爆弾を、
俺が処理した。

忘れられねぇ事件の1つだ。」


ゆっくり振り向いた葵は、静かに松田と向き合った。


『…松田さんは、爆弾処理の技術をお持ちなんですね』

「昔、数年間爆発物処理班にいたからな」


そうなんですね、とだけ答えて、
葵はまたも視線を外に移した。


再び続く沈黙の中、観覧車はガタンガタンと高度を下げ、
徐々に視界に入る範囲が小さくなっていく。
米花中央公園は、もう、見えない。


『…犯人を、
殺したいほど憎んだこと、ありますか?』


爆発物処理班にいたから、という訳ではないが、
警察として多くの捜査をしていれば、葵の想像を超えるほど、
理不尽な、理解できない犯人と遭遇しているだろう。

何を思ったのか、何を知りたかったのか、
葵の口は自然と動いていた。



視線を合わさずに投げかけられたその問いに、
松田は一瞬戸惑い、
そしてしばらく何も言わなかったが、

「ないわけ、ねぇだろ」

と、何かを思い出すように視線を鋭くした。

その答えに満足したのか、
あるいは不満だったのか、
窓の方へ顔を向けたまま、
地上に降りるまで、葵はそれ以上口を開かなかった。

大観覧車_5→←大観覧車_3



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 8.9/10 (37 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
46人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。