大観覧車_4 ページ39
「…」
知らない方が良いに決まってる、と、
思考を改めたのはつい先ほどなのだが、
葵がそれを知っているとは、
そして、まさかその事件について聞いてくるとは、
予想していなかったからだ。
そもそも、
結城警部が彼女の父親で、
そのことで爆弾に過敏に反応しているんじゃないか、
理不尽な動機が、爆弾などと卑劣なやり方が許せないと、先日、あんな話をしたのではないか。
およそ合っているだろうと考えていたにせよ、
それは、松田の勝手な推測に過ぎない訳だが。
『あ…すみません。こんな話。
せっかくの非番なのに、仕事のことなんて、困りますよね』
一瞬松田と視線を合わせるも
忘れてくださいと言わんばかりに、葵は伏せ目がちに視線を外した。
「いや...
あの事件は、捜査に加わっていた。刑事としてな。
この観覧車に仕掛けられていた爆弾を、
病院に仕掛けられていた爆弾を、
俺が処理した。
忘れられねぇ事件の1つだ。」
ゆっくり振り向いた葵は、静かに松田と向き合った。
『…松田さんは、爆弾処理の技術をお持ちなんですね』
「昔、数年間爆発物処理班にいたからな」
そうなんですね、とだけ答えて、
葵はまたも視線を外に移した。
再び続く沈黙の中、観覧車はガタンガタンと高度を下げ、
徐々に視界に入る範囲が小さくなっていく。
米花中央公園は、もう、見えない。
『…犯人を、
殺したいほど憎んだこと、ありますか?』
爆発物処理班にいたから、という訳ではないが、
警察として多くの捜査をしていれば、葵の想像を超えるほど、
理不尽な、理解できない犯人と遭遇しているだろう。
何を思ったのか、何を知りたかったのか、
葵の口は自然と動いていた。
視線を合わさずに投げかけられたその問いに、
松田は一瞬戸惑い、
そしてしばらく何も言わなかったが、
「ないわけ、ねぇだろ」
と、何かを思い出すように視線を鋭くした。
その答えに満足したのか、
あるいは不満だったのか、
窓の方へ顔を向けたまま、
地上に降りるまで、葵はそれ以上口を開かなかった。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時