大観覧車 ページ36
貰ったものを当人が使わねぇのは失礼だろ、
アンタも俺も誰かと使うのが難しいなら、
まぁ…
乗っちまえば良いんじゃねぇか?
そう言った松田の言葉に、
同じく、誰かに渡すのは失礼なのでは、と考えていた葵は、
確かに…と、素直な返事を返してしまい、
結果、大観覧車の行列に松田と並んでいた。
(どうしよう、状況が上手く飲み込めない。)
ただ、目の前にそびえる観覧車を見上げる葵は、
何mあるんだろう。
などと、先ほども思った感想を心に浮かべていて。
その横で、松田は少し表情を歪めていた。
『今日、せっかくの非番なんですよね。
あの、無理してるなら…』
葵の言葉に、
いや、ちょっと昔の事件を思い出してただけだ、
松田はそう答えた。
事件。
観覧車…
5年前にあった連続爆弾事件。
この大観覧車にも爆弾が仕掛けられたと騒ぎになっていたはずだ。
観覧車、その後に確か米花町の病院にも爆弾が仕掛けられていたはずだ。
爆弾は未然に処理され、事なきを得た事件だったが、
連日、事件を伝えるニュースを流すTVを、睨みつけるように見つめていたのを覚えている。
松田も関わっていた事件なのだろうか。
この様子を見ると20-30分ほどはかかるかな、と思いながら、
待っている間、正直どうすれば良いか、と困っていた葵だったのだが、
「さっきの子ども、アンタの子かと思ったからちょっとビビった。」
という松田に、苦笑いでもう一度否定した。
そして、松田はタバコをふかしながら、
あ、タバコ嫌いだったな。
それとも、1本やろうか?頭の整理が必要なら。
とニヤリと笑いながら葵に問いかけた。
葵が遠慮したことで、その後は2人ただ、静かに行列に並んでいたのだが、
ただ、周囲のざわめきのおかげか、
葵の困惑もすぐに落ち着き、その沈黙の時間は特に苦ではなかった。
松田の部屋に運んでもらったあの日も感じたような、
不思議な安心感のようなものがそこにあった。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時