杯戸ショッピングモール_4 ページ33
葵がパンフレットから顔を上げると、声の主は思った通り、松田だった。
今日はサングラスを外している。
『ま、松田さん』
きゅっと首にしがみ付くりく君の手を、やんわり緩めながら葵はさらに困った表情を浮かべた。
「買い物、か？」
『えっと…この子の親を探していまして…』
りく君は、松田に目を向けながらぎゅうと更に葵にしがみ付いてくる。
『り、りく君…
ちょっと苦しいから…』
やんわりと両手で体から離し、子どもを抱きかかえ直す葵に、
は？アンタの子どもじゃねぇのかよ。と松田は怪訝な顔を向けてくる。
事情を説明すると、松田も親探しを手伝ってくれることになった。
今日は非番、ということだったが、
やはり、お巡りさん、だ。
とりあえず、迷子センターに向かい、アナウンスをして貰うことにする。
ママ、と呼んでいたから、おそらく母親と来ていたのだろう。
しかし、アナウンス後もなかなか母親は現れなかったため、ちょっと探してきます、と葵はモール内を探すことにする。
『ねぇ、りく君。ママはどんな服来てたか分かる？』
最初に聞いた問いをもう一度ちゃんと投げかけると、
りく君は、葵の服を引っ張ってきた。
「んー
くろー」
『くろ？
あ、黒い服、かな。
ママはこんなスカート、かな。
それとも、この人みたいなズボン？』
と、松田を指差しながらさらに問いかける。
「んーんー
すかぁちょ」
全く手が届かないであろう葵のスカートを掴みたいようで、
ぐいっと体重を傾けるりく君を、葵は慌てて支える。
なんとも心もとない単語だが、
葵が今日身につけている黒のTシャツに白い (かどうかは分からないが)スカートのような格好なのだろうと想像する。
それと、自身を、ママと勘違いしたことからも、背格好や髪型もおおよそ似ているのだろう。
「いや、探すったって、この人数だぞ。
無謀だろ」
松田が顔をしかめる。
『あの、りく君のこと、お願いできますか？』
しかし、構わず葵はりく君を抱っこしながら松田の方へ預けようとする。
「いや、だったら俺が探した方が早ぇだろ。」
身長のことを言っているのだろうか。
確かに松田なら、人を見渡しやすそうだ。
『確かに…』
と、考え直そうとしたが、それはりく君によって遮られた。
松田が再度葵にりく君を預けようとすると、
松田のシャツを引っ張ったまま離そうとしないのだ。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年7月1日 21時
