理不尽な動機_4 ページ27
『…許せない、だけです』
チラ、と葵の顔に視線を向ける松田だったが、葵は向かいのビルに顔を向けて話し始める。
『爆弾、なんて。
相手を殴れば、その手が痛む。
ナイフで刺せば、恐ろしい感触が残る。
その、流れた血の感覚が嫌でも残る。
でも、爆弾は…』
顔を逸らしながら話す葵の表情はうまく読み取れない。
ただ、その口調から、松田は彼女の深い怒りを感じた。
『自らの手を汚さず、
離れた場所から、
ゲームのように簡単に相手を傷つける。
血が出ようが、死んでしまおうが、
ただの1シーンでしかない。』
わずかに、肩を震せながら話す葵の言葉を、松田は静かに聞いていた。
『爆弾を処理してくれたのは、松田さん、なんですよね』
顔を背けたまま問う葵に、松田は、あぁ、と短く答える。
『ありがとう、ございます』
「警察なんだから、当然だろ」
松田の言葉に、葵は体勢を変え松田と向き合う。
『でも、警察だから、傷つけられていい訳じゃない、と思います。
それが使命だって、それはそうかもしれませんけど…
爆弾を使って人を傷つけようとする卑劣な犯人に、
自己顕示欲を満たすためだとか、妬みや恨みだとか、理不尽な動機に、
傷つけられていい理由なんて、どこにもないはずです。
警察だろうが、誰だろうが、同じでしょう...』
グッと、またも下唇を噛んで目を伏せる葵に、
松田は言葉を飲み込む。
(爆弾を使うような卑劣な犯人に傷つけられていい理由はねぇ、か…
萩原、お前が聞いたらなんて言うかな。)
親友の顔が浮かぶ。
しばらくの沈黙の後、
『...す、すみません。
松田さんがいなかったら、事務所が大きな被害にあっていたかもしれないのに…
ありがとう、ございます。』
もう一度謝罪とお礼の言葉を述べ、
仕事に戻ります、と屋上の扉に向かう葵に、
「あー、そうだ。
サンキュな、チョコレート、美味かった」
と、松田は言いそびれていた礼を伝える。
あ...良かったです。
と、小さく笑って屋上を去る葵の背中をぼんやり見つめる松田。
過去への後悔と、相反する澄んだ感情が入り混じり、
複雑な表情で自嘲を零す。
残りのタバコに口をつけながら、
(…頭を整理…ねぇ。)
やっぱり変な奴。
口癖のようになりつつある言葉を漏らす。
(結城…
爆弾…
…どこかで...)
と、ふと頭をよぎるが上手く纏まらない。
タバコの効果はあまりないようだ。
あんまりサボるとまたアイツに怒られるな、と、警視庁に戻る松田だった。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時