逃れられない想いとともに。(2)【松田陣平】 (ページ21)

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狙われた法律事務所_6 ページ21

最近恨まれるようなことはないか、
これまで不審物が送られてきたり脅迫されたことはないか、

など、事務所の人間それぞれからの事情聴取を一通り終え、警視庁へ戻る佐藤と松田。

(そうか。アイツがいる事務所だったのか…)

自身は一言も交わすことはしなかったが、終始苦い表情を浮かべていた葵を、松田は気にしていた。
明らかに怯えていた事務員の女とは違って、怒りというか、憎悪のようなものを浮かべているように感じた。

心当たりはない、といっていたが…
何か知っているのだろうか。

ふるっと頭を振り、何の根拠もない推測はとりあえず一蹴させる。

(礼、言いそびれたな。)

状況が状況だ。そんな場合では無かったのは当然なのだが。

今朝、部屋を出るとドアノブに紙袋がかけられていた。
中には、1枚のメモと、見慣れたカットソーとジャージが見える。

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先日はありがとうございました。
服も、本当に助かりました。
クリーニングに出していたので、お返しするのが遅くなってすみません。

箱は、チョコレートですが、苦手でしたらごめんなさい。
怪しいと思ったら、お気になさらず捨ててくださいね。

結城葵
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袋の中のメモには、葵を部屋に運んだ翌朝に、テーブルに置かれていたメモと似た整った文字が並んでいた。

(クリーニングって…
几帳面すぎだろ。)

袋を探ると、中から出てきたのはラッピングされた小さな箱。

(チョコレートって…これか?)

刑事という立場を考慮してか、怪しいと思うなら構わず捨てて、という文章に、松田はため息交じりに小さな笑みをこぼしたのだった。

登庁後、カバンからちらりと覗く箱を見て、
最近オープンしたチョコレート専門店の箱だ、と交通課のヤツが騒いでいた。

「カカオ多めで、甘いものが苦手な貴方みたいな人にも人気みたいよ？」

ニヤリと笑う佐藤に、チッと舌打ちしながらも

(気ぃ回しすぎだろ。
まぁ、慣れてんのか…)

と、いつぞや葵が松田に対して浮かべたような感想とともに、またもため息混じりに小さな笑みを零したのは、数時間前のことだった。

「警察官もそうだけど、おそらく弁護士も、不本意に恨まれる職業よね。」

そう言いながらハンドルを切る佐藤を横目に、
恨みがあるなら直接言や良いだろうが…と、子どもみたいな文句と、殉職した親友の顔を浮かべる。

爆弾を使った犯行という卑劣な行為は、松田にとって許せるものでは無かった。
葵もまた同じ感情を持っていることを、松田はまだ知らない。