逃れられない想いとともに。(2)【松田陣平】 (ページ16)

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狙われた法律事務所ページ16

4月に入り、桜も満開。春めいてきた。

先日、葵が『そういえば、司法試験どうだった？』と神山に聞くと、苦い顔をされてしまった。
分かり易すぎるほどに。
そんなことから、仕事を振りすぎないようにするべきか、と茅野と白石と話し合ったところである。
いや、経験は大事だ。試験は自分で頑張って貰わないと、と結局何も変わらなかったのだが。

ちらりとデスクで調べ物をしている神山に目を向け、葵は心の中で小さく謝罪をした。

「あの、結城先生」

そんなよそ見をしていると、ふと、白石が声をかけてくる。

『白石先生、どうしました？』

「少し伺いたいことがあるんですが…
秋野先生ってご存知ですか？」

『秋野先生…
あ、確か…主に情状酌量による減刑を目指して弁護する先生で、これまでほぼ全ての裁判において弁護人の刑期を軽くしてきた先生…だと聞いたことがあります。』

秋野は、自身の個人事務所を持ち活動している主に刑事事件を担当している弁護士だ。
弁護側の”無罪”による勝訴というよりは、情状酌量により刑期を限りなく軽くする方針で戦う人物だと、噂で聞いたことがある。言わば、情状酌量による減刑のスペシャリスト、である。

『秋野先生がどうかされたんですか？』

「実は、家裁の案件で原告の弁護を担当することになったんですが、相手は秋野先生でして…
僕もそういう噂を聞いているのと、どうやら…かなり際どいやり方をしてくる方のようで。」

『際どいやり方？』

「茅野先生から聞いたんですが、まぁ、いわゆる被告側の主張に怪しげな点があったりするそうで。情状酌量に考慮されるような、経緯だとか証拠だとか…」

白石は不在の茅野のデスクにちらりと目線を向け、顔をしかめながら小声で話し続ける。

『捏造、ということですか…？』

「まぁ、そこまで明らかではないと思うのですが…
とりあえず気をつけろと、茅野先生からは忠告をもらいまして。

結城先生も、もしかすると何か知っているかなと思ったのと、今後関わることもあるかもしれないので情報共有といいますか。
あとは、単純に愚痴ですね。すみません…」

茅野はこれまで裁判で戦ったことがあるということなのだろう。
実際はどんな人物なのだろうか。

デスクへ戻る白石を見ながら、葵は複雑な表情を浮かべた。