若宮隼人_2 ページ45
10年前の2月17日。
大学2年だった若宮隼人が,テロを企てている組織のメンバーとして,警察に任意で連行された。きっかけとなったのは,爆発物の設計図および爆破計画を含むデータを所持していたことだ。
組織は,数年前からメンバーが摘発されていた過激派グループで,まだ全容が明らかにはなっておらず,
社会人から大学生,一部は高校生もメンバーとなっていると噂されていた。
若宮隼人が所持していたとされるデータはUSBに保存されており,そこからは,隼人以外の指紋が検出されなかったそうだ。
データが本人のもの,という確証は無かったが,明らかな物的証拠として,隼人は任意の取り調べを受けた。
本人は何も知らない,見たことのないUSBだと否認し続けた。
任意だったため,夜には一旦自宅に帰されることが許されたものの,取り調べは連日続いた。
若宮家は,当然弁護士にも相談し,無実を訴えたが,
公安絡みであろうその事件に関わりたがらない弁護士もいて,弁護を引き受けてくれる人物を探すまでに時間を要した。
葵は,警察官である父に猛抗議をした。
なぜ隼人があんな目に合わなきゃいけないのか。
本当にちゃんと調べたのか。
隼人がそんな人物じゃないことは,お父さんだって良く知ってるはずだ。
父が,上に掛け合ってくれたことは知っている。
それでも,事態は変わらず,葵は理不尽に対する怒りをぶつける相手が分からず,ひたすら父を責めた。
警察から帰ってくる隼人は,ぐったりしながらも,「俺はそんな組織知らない。やってないよ、何も。だから大丈夫だよ。」と、笑っていたのは最初の数日間で、そんな日々が1週間も過ぎると、目の下には大きなクマができ,「俺はやってないんだ…!何も、知らないんだ…」。そううわごとのような叫びを呟くばかりになっていた。
まだ高校2年だった葵自身も必死で,足りない頭を使って弁護士を探した。
事務所を探し,ひたすら電話をかける。
今は他の案件があって難しい,
そういう事件は扱っていない,
そんな断りばかりを受け,弁護士とはなんなのか,無実の人間を守る職業じゃないのか,そう憤った。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時