弁護を担うもの ページ36
その後木本は、ぽつぽつと語り始めた。
コンビニで働いていた3ヶ月の間、27歳フリーターかつ高卒という理由で非常に不当な扱いを受けていたこと。
最初は問題なかったようだが、店の売上が良くないからとか、木本にミスが多いから、などと理由をつけて給与も徐々に減らされていたらしい。シフトも自由に入れさせて貰えず、重い荷物の入ったコンテナの運搬や、大変な仕事ばかり押し付けられることも多かったようだ。
店長に何度か訴えたそうだが、仕事の出来の悪さを理由に断られるだけでなく、仕事のミスを理由に度々バックヤードで怒鳴られていたそうだ。
クズ、と呼ばれることは日常茶飯事だったと、木本は弱々しく話していた。
椅子を蹴り飛ばされたこともあり、
葵たちに見せた痣は、葵が睨んだ通り、やはりその時にできたものだったようだ。
「あ、そういうことだったのか」
と、神山は木本の話を聞いてようやく理解したようだったが。
辞めようとしつつも他の仕事が見つかるまで、と我慢していたが、結局耐えきれず1ヶ月前に店を辞めた。
新しい仕事を探しながら頑張ろうと思ったが、店長の怒鳴り声や暴言が頭から離れず、店に対してなんとか仕返しをしてやりたいという考えが膨らみ、
その結果、強盗に入り金を奪ってやろう、店を、店長を困らせてやろう、と行動に移してしまったということだった。
『実際に犯行を行った、ということは分かりました。
事情は分かり…ました。』
本心だろうか。それとも、演技…
やや苦しそうな表情で葵が木本の話を受け入れる。
『ただ…自白を強要された、という話については、本当ですか?』
そう。
そもそも木本の案件は、松田刑事に彼が自白を強要されたのか、
不当な取り調べがあったのか、ということだ。
「…、嘘、だ。
確かに、声を荒げられたり、机を叩かれたことは、あった…
あとは、あの店長に、やられたことで…」
ふぅ…と息を吐き、『そう、ですか…』と葵が零す。
『当初否認をしていたのは…?』
「…結局、あの店長には何にもできてねぇ。金も奪えなかった。…店にも復讐できてねぇ。
…だから」
『まだ、達成しきれてないと、もう一度強盗にはいるつもりだったんですか…?』
「…切りつけちまったあの店員の様子も…気に、なって…」
(なんだ。ずいぶんと後悔してるんじゃないか。)
ずいぶんと弱々しい表情になった木本に、葵は淡い哀れみの目をむけかけて、
はたと、我にかえる。
情に呑まれてはいけない。
105人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時