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10年越しの再会 ページ48

(隼人兄ぃ… 来たよ。)

交差点前の電信柱に,
そっと,花束を置いて手を合わせる。


(…やっぱり,
あの時引き止めれば良かったって…
今でも、思うんだ。)


うっすら,視界がぼやける。
でも,その雫は落ちない。


信号が青に変わり,目の前の横断歩道が賑やかになる。
車のエンジン音が,どこか遠くに聞こえる気がする。






「葵…ちゃん?」

ふと,頭上で声がする。
頭に染み付いた懐かしい声。

『…

おばさん…』

声の主は,自身の母親がわりのような存在だった,隼人の母親,結子だった。


「来てくれたのね。
元気だった…?
もう随分…

6年前の,お父さんの葬儀以来…ね」

『はい…』

娘を見つめるような優しそうな表情の裏に,決して消せない深い深い悲しみを刻んだ瞳で,
葵を見つめる結子。

「…ねぇ。…ここだけじゃなく,お墓の方に手を合わせてあげて?」
『で、でも…』

「葵ちゃん…
私もね、去年まで、行けなかったの。
隼人を一人にした自分が、どうしても許せなかったから。

…でも、可哀想じゃない。
死んでしまってからも顔を合わせてあげないなんて…
一人にして,本当にバカな親だって, そう思ったの。」


葵の置いた花束を見ながら,
ポツポツと零す結子の言葉に,
それまで溢れずにいた雫が,葵の目から溢れ始めた。


『最後に会ったのは,私なんです。
あの時付いて行ってればって…
心配かけないように嘘ついて笑ってるって,気づいてたのに…』

「うん…
家を出るあの子を,見送ってしまった私も,同じなの。
一人で行きたい,大丈夫だから,って,笑ったあの子の顔が今でも夢に出てくるの。

無理にでもついていけば良かったって,
引き止めれば良かったって,
何度思ったか分からない」

葵は,溢れる涙を拭おうとはせず,ただ静かに俯いていた。

「…ね。
手を合わせに来てくれる…?
隼人も,きっと,葵ちゃんが来てくれたら,

その…, おかしな言い方かもしれないけど,嬉しい…と思うの」

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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時

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