10 もう一人の生徒 ページ10
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固まった体を精一杯動かして振り向くと、スウェットを着た男が立っていた。
「…イ・A？」
寝ぼけ眼で私の名前を口にする。
「…チョン・ジェヒョン？」
「あ、やっぱりイ・Aか」
そうだ、同じクラスのバスケ部の人。
「オレの名前知ってたんだ」
「…そっちこそ私の名前知ってたんだ」
何それと笑いながら冷蔵庫から水を出すその姿は、まるでここが自分の家のよう。
それにしても、こんな感じの人だった？
学校で見る彼はもっとずっと笑顔で、優しい雰囲気の人間だった気がする。
「…何、」
それなのに今目の前にいるチョン・ジェヒョンは、息が詰まるような雰囲気をしていて、圧倒されてしまう。
「…飲む？」
「いや」
「そ、」
「…イ・Aってこんな感じだったっけ？」
「え？」
「学校では明るくて、好かれてるけど」
「なんか寂しそうだね」そう言って私を一瞥した彼は、なんでもなさそうにまたペットボトルを傾けた。
「その言葉そのまま返すよ」
「はは、似た者同士ってことか」
チョン・ジェヒョンから見た私は、私から見たチョン・ジェヒョンのような姿なのかな。
「そうだよね、じゃなきゃヒョンの家にいるわけないもん」
「イ・Aも、ヒョンに見つかっちゃったんでしょ」
変な言い回し。
「見つかりたかったから別にいいの」
けど、その言葉の意味はなんとなく知っていた。
「…ヒョンのこと、好き？」
「まぁね、担任だし」
「…オレと同じだね」
誰かに見つけてほしくてずっと外の世界にいた。
好きとか嫌いとかじゃなくて、たまたま見つけてくれたのが先生だった。
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作者名：椿 | 作成日時：2022年1月12日 15時
