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「今は、ほんとに散歩です」
「その前は?」
言えたら楽なのに、いくら経っても喉から出てきてくれない。
気分はよくならないだろうから、詰まった言葉を飲み込んだ。
そんな私を待ってくれていた先生は、また少ししてから話し始めた。
「先生もね、Aに信じてほしいことがあるんだ」
横を向くと、先生と目が合った。
「先生、いつでもAの味方だよ」
今時ドラマでも言わなさそうな、あまりにもベタなそのセリフに、ムン先生のすべてが詰まっている気がした。
自ら関わりに行ったことなんて数えられるくらいしかないし、今初めてこうして会話したようなものだけど、先生の持つ先生らしいあたたかさは、傍から見ていても分かっていた。
何より私は、本当に冷たい人がどんなものか知っていた。
だからそ信じる他なかったし、頼るしかなかった。
日が沈む前は平気だったのに、今になって、塞き止めていたものがどっと溢れる。
「…大丈夫」
さっきまで遠かったはずの先生は、いつの間にかすぐ傍にいて、震える肩を優しく叩いてくれた。
優しさを必要としていた私に、先生はそれ以上のあたたかさをくれた。
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作者名:椿 | 作成日時:2022年1月12日 15時