あの日、あの時、それから ② (ページ15)

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『雨ですね』

Aがそう呟いて俺は頷く。朝の天気予報でも言うてへんかったし、登校時にも誰も傘なんか持ってへんかった

『ちょっと待って下さい。……あ、あった』

Aが小さな折り畳み傘を開いて、先輩と俺を呼ぶ

『これ良かったら使って下さい』

西｢いや、ええて。Aのやねんから、Aが使ったらええよ｣

『大丈夫です。俺走りますから』

グッと俺の方に押し付けるように渡してきた傘。でも俺も負けじと押し返す

西｢あかんって、風邪引いたらどうするん？｣

『大丈夫です。風邪ならもうこの前引きましたから』

西｢余計あかんわ。もうほんまにええから、｣

Aが使って、そう俺が言ってAの方に傘を押し付けた時だった

A。雨の中でもしっかりと耳に届いた凛とした声

でもその声を同じように聞いた彼の表情は俺が出会ってから初めて見るものだった

『……あ、』

主張しすぎない淡い茶色の髪にどことなく感じる上品さ。まるで絵画の世界から出てきたような、そんな絵になる女性だった

そんな女性をAはハッキリとお母さんと呼んだ