ホイップ増量で。【不死川実弥】

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「今日は、本当にありがとなァ。」
「私の方こそ、ありがとうございました。」




楽しかった、と口にすればすかさず俺も、と返ってきた。ゆっくり、ゆっくりと進む私たちを追い抜く多くの人々。それぞれがこの夜を名残惜しげに見上げていた。




「また、来ようなァ」
「…はい、約束です」
「なァ」



＿＿＿＿＿木下は好きな奴いるか。



無意識のうちに体が強張っていくのが自分でもわかった。不安と期待で揺らめく紫(し)の瞳の奥の私は、先輩と変わらないぐらい頬を赤く染めていた。ギュッと彼の手を握って、頭を1回だけ、振った。



「そうかァ」
「…ッ、優しくてその人の、笑った顔が、…好き、です。」



いつのまにか、空からは雪の粉が舞い降りていた。まるでこの夜に寂しさを孕んだ心に寄り添うかのように、冷たいはずのそれは優しく優しく降っていた。自分の鼓動が響く世界で、貴方から紡がれる1つ1つの言葉を聞き逃さないようにと、優しい雪の華は界隈の音を飲み込んでくれた。




「…俺の好きな奴は、すぐに真っ赤になって可愛いんだァ」




……言わなくちゃ、貴方に伝えないと。




「木下。」



腕を引かれ、向き合うようになった私たち。目の前の彼は、微かに震えて口元はぱくぱくとだらしなく動いていた。深呼吸を2度、繰り返した彼は「あ、の…。」と白い息を吐き出した。

カタカタと震えどうしてか熱くなる目頭が私の邪魔をして、どうしても私の伝えたい言葉を閉じ込める。その言葉がなければ、貴方の心に触れることはできないというのに、臆病者の私がここぞとばかりにその力を発揮してしまった。



「…………ッ、帰ろう。」



ごめん。それだけを告げて、私の手を引いて、歩き出す。でも半歩先を行く、今までみたいに隣を歩いてくれることはなかった。


＿＿＿＿＿好き、だと私は言えなかった。

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