手入れ方法は『キス』。 II

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愛染君と明石さんに私たちの離れに誘ったが、二人とも口を揃えて断られた。
理由を聞いてみたら、蛍丸と過ごした思い出の場所にいたいから、だそうだ。
無理にこちらに来てもらう必要もなかったから私は「わかった」とだけ言って頷いた。
時々様子見に会いに来るねと約束をした。

心の奥底がまだ温かい熱がこもっている。
じりじりとした嫌な感じじゃなくてぽかぽかとした優しくて心地よいあたたかさ。
ずっとこの温もりを感じていたい。

今日はとてもいい日だった。
明石さんと愛染君を救うことができた。
それが何よりも今の私にはとてつもなく嬉しい。
多分明日はもっといい日がくるに違いない。


夜。
夏の季節が終わりを迎えてきたのか、本丸に流れる風が涼しい。
厠帰りですぐ離れに戻るはずだったのだが、夏の最後のこの風を肌身に当たっておきたい。
すぅーーと風が吹くと草木が静かに揺れる。
カサカサと気持ち良さそうに。
私は縁側に腰をかけ、ブラブラと足を上や下に動かす。



「はぁ涼しくて気持いなぁ〜夏が終わるのを感じる〜」


そう言ってごろんと寝そべった。
寝そべったところの木が冷んやりとしていて冷たい風とはまた違った気持良さ。
私の体の熱が冷やされるのがわかる。

ギシ、と音が鳴った。
もしかして私が帰って来ないから誰かが離れから迎えにきたのかな。



「ごめんごめん、つい風に当たりたくなって」
「ヨォ、お前こんな男しかいないところでよくそんなに気ままに居られるな」


聞いたことがない声だった。
寝転んでいたままだったせいか、はたまた夜のせいか顔がよく見えなかった。
でも確かに分かることは私の知っている刀剣男士ではないということ。
この人の他に後一人いるということ。

気付いた時には遅かった。
起き上がろうとした私を逃げさせまいと腕を掴まれそのままの勢いで床にに落とす。


「痛ぅ……」


力強っ。
え、いま私盛大に腕グキって言ったよ⁉
骨折れていないよね⁉ 大丈夫だよね⁉



「兼さんがどうしても最近本丸で噂になっている『主さん』に会いたいっていうから僕も付いてきたけど、捕まえたままどうするの兼さん？」



少年のような声。
兼、さん？
今私の上にまたがっている人が兼さん？



「な〜に。ちょっと試してェことをするだけだ」



試す？ 何を？
そう思った矢先に私の口に妙は感触が当たった。
体が石のように動かなくなって思考が停止した。
だって今、私この人に。
兼さんに『キス』されたのだから。

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